【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第7章 ※本当の私
「あの日…いつものように俺に構う男の子達…3人くらいに靴を取られて、取りに来いって言うから離れて歩きながらついて行ったんだ。
母親が新しい学校で履くために買ってくれた、大事な靴だったからね。しろた橋まで行った時かな…
そのうちの一人が俺の靴を…川に落としたんだ。」
『…っ……』
「彼等は笑いながら帰っていって、俺は呆然としながら川を見つめてた。
運良く石に引っかかって流れてはいかなかったけれど、どうやって取ったらいいかわからなくて諦めようとしてたんだ。」
『っ…もしかして…』
記憶の中に突如現れた男の子。
黒いキャップを被っていて、か細く、オドオドとした男の子。
「思い出してくれた?
あの後沙良ちゃん…君が俺の前に現れたんだよ。」
クスっと笑って私の頭に手を沿わせ、撫でるように触れる蘇枋君。
「通りかかった君が状況を察して…即座に川の下に繋がる道まで案内してくれたんだ。
道にお腹をつけて、一生懸命手を伸ばして川に浮かぶ靴を取ろうとしてくれていたのを、俺はただ見つめる事しかできなかった…」
蘇枋君の手が止まった。
「やっと取れたビショビショの靴を俺の前に差し出して、君は言ったんだ…」
『すぐ乾くよ…って…言った気がする…』
蘇枋君は頷いた。
「あの時の君の笑顔が…
どれ程俺を勇気づけてくれたか…」
目を閉じる蘇枋君。
『………』
「お礼も言えなかった俺に、またね、って手を振って君はいなくなった。
あの後ね…濡れた靴を履いて帰ったよ。靴下がグショグショに濡れても、悲しくも恥ずかしくもなかった…」
『蘇枋君…』
「…俺は強くなりたいと思った。このままではいたくないって、沙良ちゃんのお陰でそう思えた。強くなって、また君に会ったら笑顔でありがとうって言おう…そう思ったんだ。」
『………』
「同じ学校なのに、全然会えなかったね。
探したわけじゃなかったけど、結構大きい学校だったから無理なかったのかな…
…次に会った時の君は…
3年生の時のような君じゃなかった。」
『……いつ…かな?』
3年生の時の私でなかったなら、多分…
5年生以降だ…
「5年生の時…
公園で一人、俯いて泣く君の姿を見たのが最後…」
ドクン…
絶対に思い出したくない
あの日だ。