【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第7章 ※本当の私
「沙良っ…」
ガラガラと開けられた扉。
薄暗い部屋の中を歩く足音。
「…っくそ…どこに…」
開けっ放しの扉の外から、走って出ていく梅君を追いかける声が聞こえる。
「ちょっと梅っ…沙良に何言ったのよっ…?」
「ったく何やってんだアイツは…」
しばらくすると足音は聞こえなくなった。
椿さんも柊さんも、私を探してくれている…
幼稚な事をして迷惑をかけている…
罪悪感でいっぱいになった。
出ていかなければ…
『蘇枋君…あの…ありがとう……ごめんね。』
窓際にあった狭い教卓の下に、とっさに寄り添うように隠れたため、向かい合った蘇枋君に謝罪した。
蘇枋君の足の間に挟まるような体勢になっていたので、急いで体を離そうとすると
「離さないよ。せっかく2人きりになれたんだから…」
蘇枋君の落ち着いた声が耳元で響き、優しく左手を掴まれる。
少し…怒ってる…?
「蘇枋君…ごめん…迷惑かけて…すぐにどくから…」
床に手をつき、離れようとすると、蘇枋君の腕にフワリと包み込まれた。
『…っ……』
「沙良ちゃんは…最後に会った時も泣いていたよね。
よく覚えてる…」
蘇枋君はこぼれ落ちた涙を指で掬うと、ふっ、と眉を寄せて笑った。
薄紫の大きな瞳に捉えられ、ドキリとする。
笑っているのに…その表情はどこか寂しそうだった。
『蘇枋君……私達、昔どこかで会ってるの…かな?
ごめんね、思い出せなくて…あの…どこで?』
「…その前にさ…
沙良ちゃんが何で泣いているのか…教えて?」
『…っ……』
一瞬
ゾッとするような据わった目つきになった蘇枋君に、心臓が早鐘を打つ。
『蘇枋君…』
「あぁ、ごめんごめん。言いたくなければいいんだよ。
俺達の出会いだったね…」
パッと明るい表情に戻る蘇枋君。
見間違い…?かと思う位、表情が別人に見えた。
遮光カーテンで薄暗いせい…?
「俺達は…2回会っているんだよ。さきの町で。」
「さきの町…」
昔住んでいた町…戻りたくない場所。
「俺は沙良ちゃんと同じ小学校に3年生の時転校してきて…恥ずかしい話だけれど、イジメにあっていてね。」
『………』
話を始めてくれた蘇枋君に申し訳ないので、その場にしゃがみ、頷きながら反応した。