第4章 6つのお題から自由に選択
祭りの開始を告げる太鼓の音が響き渡ると、七瀬は鬼の面をつけて会場へと向かった。
色とりどりの屋台が立ち並び、綿菓子の甘い香りが鼻をくすぐる。
互いの仮装を見て笑う子供たちの明るい声、商人の呼び声が混じり合って、祭りの活気を演出していた。
そんな賑やかな雑踏の中で、七瀬の視線は一人の人物に釘付けになった。
狐の面をつけた着流しの男性が、屋台の前をゆっくりと歩いていた。
その立ち振る舞いには不思議な品格があり、群衆の中にいながらも、まるで別世界の住人のような、印象的な空気を纏う。
白橡色の髪が夜風に揺れ、町の明かりに照らされてきらめいているように見えた。
七瀬は無意識のうちに、その男性の後を追うように歩を進めていた。
心臓の鼓動が激しくなり、手のひらに汗がにじんだ。
なぜこんなにも動揺しているのか、自分でも理解できなかった。
追いかける背中は、メイン会場から少し離れた町外れの小さな神社へと向かっていく。
古い石灯籠が並ぶ静寂に包まれた参道を、月光が青白く照らしている。
闇で見失ったかと思われたが、
「やぁやぁ、こんばんは。俺に何か用かな」
突然声をかけられ、七瀬は驚いて振り返った。
上背のある狐面の男性が、音も無く背後に立っていた。
「ええっ、あ……っ、こんばんは……」
七瀬は慌てながら挨拶を返す。
「いい夜だねぇ。俺は童磨。君は?」
男性は狐の面を外しながら自己紹介をした。
現れた顔は笑みを浮かべ、どこか掴みどころのない雰囲気を湛えていた。
光の加減で虹色にも見える美しい瞳に目を奪われる。
名を問う声は思いのほか優しく、どこか少年のような無邪気さを含んでいた。
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