第4章 6つのお題から自由に選択
涼やかな秋風が頬を撫でていく。
夕暮れが小さな町を包み込む頃、明かりが一つ、また一つと灯り始めた。
黄昏時から開催される伝統の夜祭は和風ハロウィンともいわれ、この閑静な町にとって年に一度の大イベントである。
普段は人通りもまばらな商店街に、久しぶりに活気が戻ってきた。
祭りが始まる頃、ここは非現実の世界に染まる。
提灯の明かりが揺れ、狐や鬼、天狗など妖に化けた老若男女が町中の通りを賑わせている。
日頃はひっそりとしたこの町も、この日ばかりは幻想の都のようだ。
七瀬は、鬼の面を手に持ちながら祭りの準備に追われていた。
日本史の勉強に励む大学院生であり、町の和菓子店でアルバイトをしながら過ごしている。
「七瀬ちゃんの鬼の仮装、とても似合ってるわ」
和菓子店の店主であるおばさんが、温かい笑顔で声をかけてきた。
「ありがとうございます。軽く仮装して、久しぶりに祭りを覗くつもりだったんですけど、案外気合いが入ってしまって……」
七瀬は苦笑を浮かべながら、手元の面を見つめた。
口元を血で濡らす生々しい鬼の顔。
雑貨店で目にした時から、胸の奥に説明のつかない感情が湧き上がって、即買いしてしまった。
懐かしさのような、そして同時に深い憎しみのような、複雑で矛盾した感情。
夜祭の参加条件は「仮装していること」。
七瀬は迷わず鬼を選んだ。黒と白のコントラストで彩られた着物に袖を通す。
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