第4章 6つのお題から自由に選択
画眉丸は強く抱き寄せた。
その腕は鋼のように固く、逃げ場はない。
けれど痛みよりも安らぎが勝った。
「逢いたかった……もう二度と離さぬ。」
耳元に落ちる声は甘やかで、七瀬の心を溶かしていく。
恐怖に震えながらも、彼に囚われることを望んでしまう自分がいた。
理性は逃げろと叫ぶのに、心と体は彼にすべてを委ねたがっていた。
胸の奥に熱が広がる。
灼けるような痛みと、甘美な痺れが同時に押し寄せる。
全身が闇に呑まれていく。
それでも――七瀬は幸せだった。
「ワシは、お前を忘れたことはない。」
「妻よ……骸となろうと魂だけになろうと、俺と共にあれ。」
涙が溢れ、呼吸が絶え、視界が赤く染まる。
それでも七瀬の唇には、確かな笑みが浮かんでいた。
恐怖ではなく、愛に似た幸福を抱いて。
翌朝。
山道で見つかった七瀬の亡骸は、穏やかに横たわり、まるで眠っているかのようだった。
その表情は苦しみではなく、恋人に抱かれているような微笑を湛えていた。
今もなお、夜の村道には三つ目の足音が響く。
忍は妻を探し続け、出会った者を抱きしめ、愛を囁きながら闇へと連れ去っていくのだ。