第8章 恋仲になりまして
「お前が来ぬから、もう来ないつもりかと思っていたが」
「……え?」
「違ったようだな」
一歩、距離が詰まる。
さっきよりも、ずっと近い。
逃げ場なんて、最初からなかったみたいに。
「俺はな。お前が望めば、いくらでも会いに行くつもりだった」
「……っ」
「だが、来ない。誘いもしない。距離も詰めない」
くす、と光秀さんは自傷気味に笑った。
「てっきり、あの夜のことを後悔しているのかと思っていたのだが」
「そんなこと!」
反射的に否定すると、すぐ近くで息が揺れた。
「そうか…。ならば、なぜ他の男の前ではああも無防備に笑う?」
「えっ…、それは…」
言葉に詰まる。
だって、さっきのはただの会話で——
「俺の前では、そんな顔はしないだろう?」
「……」
図星だった。
意識しすぎて、うまく笑えない。
緊張して、どうしていいかわからない。
でも、そんなことは言えない。
「……なんとも愛らしいな」
「え?」
思わず顔を上げる。
「ようやく、らしい顔をする」
指先で顎を軽く持ち上げられ、視線が、絡む。
……逃げられない。
「俺は、お前を手放すつもりはない」
その言葉は、優しいわけでも、甘いわけでもない。
それなのに。
どうしてこんなに——
「……っ」
胸が、いっぱいになるのだろう。
「今宵、空いているな?」
不意に、いつもの調子で問われる。
「え…?」
「行くぞ」
「ど、どこに…?」
すると、光秀さんはわずかに目を細めた。
「——逢瀬だ」
心臓が、止まりそうになる。
「恋仲なのだろう?」
そう言われて、断れるはずがなかった。