第53章 詫言 ✴︎
生徒達に帰りの挨拶をしてから職員室に向かい
自分のデスクでやるべき仕事を終え、
赤井さんに会いに工藤邸に着く頃にはもう日が沈んでいた。
合鍵を使って屋敷の中に入った途端にとてもいい香りがしてきて、仕事終わりの私は、かなり食欲をそそられた。
『お邪魔しまーす。』
玄関から中にいるであろう赤井さんに声をかけると
昴さんの顔の状態で私を出迎えにきてくれた。
「仕事お疲れ。」
『…。』
ああ…顔を見るだけで癒やされる…
それにこうして会えるだけで疲れが吹き飛ぶなぁ…。
ジッと顔を見つめていると
昴さんは不思議そうに首を傾げていて
私は靴を脱いで家に上がった瞬間、自分から昴さんに抱き付いた。
「っ、美緒…どうした?」
『んー、赤井さんに会えて嬉しいの!』
スリスリ、と赤井さんの胸に頬を寄せていると
私の背中にも手が回り、ギュッと抱きしめ返してくれた。
「…そんなに可愛い事をされると
夕食の前にお前を食べたくなるんだが?」
『!?だ、だめ!!まだ昴さんの顔だもん!』
「だったらあまり煽るな。」
…煽ってない煽ってない!
ただ抱き付いただけでそんな風に捉えられちゃうなんて思わなかったから、今度からは気をつけよう…。
『そ、それよりすごくいい香りがするんだけど…』
「あぁ…腹減っただろう?
クリームシチューを作っておいた。」
『ほんと…!?でも作るなら私も手伝ったのに…』
「いつもお前に作ってもらうのは悪いからな。」
そんなの気にしなくていいのに…
でも赤井さんが
私のために夕食を作ってくれたのは素直に嬉しい。
「先日茶髪の子にダメ出しされたが
今日はちゃんと煮込んでいい出来になったと思う。」
赤井さん…灰原さんに言われた事、根に持ってたんだね。
上手に作れたと嬉しそうに話す赤井さんは
なんだか少し可愛くてクスクス笑っていると
頬をムニっと摘まれた。
「…おい、何を笑っている。」
『な、なんでもないでふ……』
私がなんで笑っていたのかは
きっと赤井さんにはお見通しで、不貞腐れたような声だったけど、それもまた可愛らしかった。