第43章 謝意
「おい、ニヤつくな。」
『っ、すみません…』
コツン、と額を小突かれたけど痛みなんて全然無くて…
むしろもっと叩いて欲しいとすら思ってしまった。
……そんな事を考えてしまう私の方がきっと重症だ。
それに私の額に触れた赤井さんの右手には
私がプレゼントした腕時計がはめられていて
それを見ただけで幸せな気持ちになるなんて、私は本当に単純だと思う。
「……そろそろ行かないといけない。」
赤井さんは私にそう告げると
背中に回している左手にグッと力をいれて、私の体をさらに引き寄せた。
ゆっくりと顔が近づいてきて
キスをされるんだと思い目を瞑ると、唇ではなく頬に感じた赤井さんの唇の感触……
ちゅっ、と音を立てて、そのまま赤井さんは私から離れた。
『…っ、え……?』
「お前の口にキスをするのは帰ってくるまでお預けだ。」
『なっ……!?なんでですか!?』
「俺の事を疑った罰だ。ちゃんと反省するんだな?」
『〜〜〜っ!!!』
な、なんて意地悪な人!!
でも確かに私が悪いから、何も言い返せない…!
なのでここは仕方なく我慢することにして……
『ちゃんと…我慢しますから…
帰ってきた時はたくさんしてくれますか?』
「ああ…、息が出来なくなるくらいしてやる。」
再び私の頬にキスをした赤井さんは
玄関の方へ向かって歩き出し、荷物を手に取り靴を履いたところでキャメルさんが戻ってきた。
「キャメル、しばらくよろしくな。」
「了解です!」
どうやら赤井さんが留守の間は
キャメルさんが工藤邸に居座り、灰原さんの警護をするようだった。
「美緒…また電話する。」
『はい…!気をつけて下さいね!』
最後に私の頭を一撫でして、フッと笑った赤井さんは
そのまま玄関から出て行った。
そして私もキャメルさんに挨拶をした後
工藤邸を出て自分のアパートに帰ってきた。
赤井さんが2週間アメリカに行く事で
会えなくなるのは寂しいけど…
ちゃんと見送る事ができてよかった。
寂しい気持ちを拭うことはできないけど
赤井さんに会う前の不安な気持ちはもうどこにもなかった。
左手についている腕時計を撫でて
赤井さんが帰ってくるまでの間、仕事はしっかりこなそうと気を引き締めた私だった。