第74章 残像
『大和警部に喝を入れられなければ
あなたを助けられなかったかもしれません…、
足がすくんで動けなかった弱い私が
これからも誰かを守っていけるのかなって…
そう思ったんです…。』
「…成程、
だから辞めようなどと口にしたのですね。」
…諸伏警部の言葉に黙ったまま頷いた私。
膝の上に置いていた手に、無意識に力が入り
ギュッと握り締めていると
諸伏警部の落ち着いた声が私の耳に入ってきた。
「正直に申し上げますと、少しホッとしましたよ。」
『え…?どうしてですか…?』
「私は貴方が、心身共に強い女性だと思っていました。
まさかそのような過去の闇に囚われているなんて…
貴方も人並みに弱い部分があるのですね。」
…一体この人は、私のことをどれほど美化していたの。
私なんかまだまだ未熟だし
至らないところも沢山あるっていうのに。
まぁ、諸伏警部とは数える程しか会ってないし
そう勘違いされても仕方のない事なのかな…
そんな風に考えていると、諸伏警部は再び口を開いた。
「弱さがあるということは…、そんなに悪い事でしょうか。」
『え…』
「私はそうは思いません。
己の弱さを知った時は、確かに立ち止まる人が多いでしょう。しかし…、その弱さを受け入れ、自分が成長する為の糧にできれば
人はさらに強くなれると思いませんか?」
『っ、…』
「それに、弱っている人を見たら
周りの人達が手を差し伸べてくれる…
人と人との繋がりの大切さにも気付けます。」
『人との…繋がり…』
「私の弟である景光や、弟の同期達、
そして、あなたの旦那さん…
彼らは貴方の弱いところを見たら
放っておくような薄情な人間ですか?」
…そんなわけない。
みんなはいつも、私のことを助けてくれる…
心を…支えてくれる…
何かあった時はいつも心配してくれて…
独りじゃないんだって、そう思わせてくれるから。