第74章 残像
『気分はどうですか…?
脚の傷は…、痛むでしょうけど…』
「この程度の傷、問題ありません。」
『そうですか…、良かった』
「それより若山さん、
先程口にしていたのは、どういう意味でしょうか?」
諸伏警部は私に尋ねながら体を起こし
ベットに座る体勢へ変えていて
すごく真剣な表情で私を見つめていた。
…これはもう何を言っても誤魔化せそうにないな。
『えっと…その…なんて言えばいいのか…』
「…。私は、貴方が警察官だった頃の実績を
調べたことがあります。」
『っ、え…』
「警視庁の警護課に配属され
SPとして職務をこなし
警護対象者に被害が出た事は一度もなく…
襲撃された際には、臆する事なく敵を制圧。
犯人検挙に何度も貢献し、優秀だったと記録に残っていました。」
『…。』
「しかし、あなたは
功績を上げていたにも関わらず、警察官を辞め
今はボディガードとして働いている…。
人を守る事に優れた才能を持つ若山さんが
なぜ……"辞めよう"などと口にするのですか?」
…違う。
私はそんな立派な人間なんかじゃない…。
確かに警察官だった頃
警護対象者を守る為に強くなろうと
自分を鍛えて鍛えて…、多くの技も磨いてた。
SPの仕事も、ボディガードの仕事も
やりがいはすごく感じてる。
でも…
『怖くなったから…でしょうか…』
「怖い…?」
『また自分の目の前で
大切な人がいなくなることが…
すごく怖くなってしまったんです…』
…私は、諸伏警部に警察官を辞めた理由や
大切な上司を亡くしてしまった事、
山で諸伏警部が撃たれた瞬間を見て
昔と同じ光景を思い出してしまったこと…
その時、かなり取り乱してしまった事を話した。
『私の上司だった人は、私を庇って亡くなったので…
もう何年も前のことなのに
未だに罪悪感が拭えないんです…。』
「それは当然でしょう…。
私も目の前で敢助くんが殺されていたら
貴方と同じ思いを抱くはすですから。」
…だけど今回は
諸伏警部はちゃんと大和警部を守った。
命が失われずに済んで、本当に良かったと思う。