第74章 残像
美「舟久保さん、一晩中捜索、お疲れ様でした。」
高「それは…真希さんのお墓ですか?」
「あぁ、そうだ。」
…そうか、この人はきっと
8年前に自殺した舟久保 真希さんの父親なんだ。
毛「確か、今日が命日だと…」
「…。俺のせいだ…、8年前のあの日…
俺が猟に使う弾薬の在庫を聞いたら
"確認してくる"って、わざわざあんな夜中に…」
舟久保さんの話を聞き
真希さんが夜中に店へ戻った理由が頭の中で合致した。
もし店に行かなければ
強盗に入った犯人と鉢合わせすることはなかっただろう…
舟久保さんの背中を見つめていると
彼がその日のことを後悔しているのが痛いほど伝わってきた。
「真希はあの日、店から戻ってきたら
俺に話があると言ったんだ…。
娘が誰かと付き合っていることは知っていた…
もしかしたら、結婚の話だったのかもしれない…。」
舟久保さんは、その時のことを思い出しながら
私達に話してくれた。
嬉しそうに、恥ずかしそうに話があると言った
真希さんの言葉が耳から離れない…
その話は、永遠に聞けなくなってしまった、と…。
そして、毎年命日には
ここに花を供えに来ているとのことだった。
コ「でも、この手前の花だけ枯れかけてるね…?」
『ほんとだ…』
舟久保さんが供えたであろう綺麗な花の前には
白い花が置かれていたが、コナンくんの言う通り
茶色くしおれていた。
「この白いザゼンソウは
毎年命日より早く供えられている。」
美「誰がそれを…?」
「さぁな。」
どうやら舟久保さん以外にも
真希さんの死を悲しんでいる人がいるようで…
ザゼンソウは雪の中に咲く花だ、と
舟久保さんは私達にそう教えてくれた。
コ「じゃあこの花は、この山で摘んだってこと?」
「だとしたら、よほど山に慣れた人だ…。
この雪の中で白いザゼンソウを見つけるのは
至難の業だからな…。」
舟久保さんはそう言い切ると
私達の元から静かに去って行き、そんな彼の後ろ姿を見送り、私達は再び山道を歩き出した。