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我が先達の航海士

第1章 我が先達の航海士


子供だから、御曹司だから甘い言葉をかけるのではない。資質を見た上での本心からの言葉。に惹かれた理由がやっと分かった。仕事に誇りを持ち、他人の夢を壊さない。家名を気にせず実力で欲しいものを手にする。厳しい道のりだとも言いつつ、決して夢を否定しないその笑顔。龍水は頭を撫でられながら、いつかこのの背をも抜いて、船長になってやると決意して床に着いた。

二日目。起床して、甲板を磨く。所謂デッキウォッシュである。ヤシの実を手に裸足でひたすら擦る。ぴかぴかになった甲板を見ると、中々の達成感。その後の朝食も美味しさが増した気がする。昨日同様に帆を張り、ロープワークやマスト登りをレクチャーされる。エイトノットやリーフノット等々、様々な形にロープを結ぶ。龍水も最初に分けられた班で作業している。持ち前のリーダーシップで他者を巻き込みつつ引っ張る龍水。面倒見もよく、手間取っているメンバーにも教える姿を見てふふ、とが笑った。

「様。龍水様がお世話になっております」
ぺこり、と。フランソワがに声をかけ一礼した。
「いえ。七海財閥の方ですね?成り行きの様なものですから。あまりお気になさらず」
大した事無いと笑うに、フランソワも笑みを返した。帆を畳み、船ともお別れである。それはとの別れをも意味していた。着岸下船式でスタッフ達から挨拶がなされる。の番が来た。一人だけ熱過ぎる視線を送る龍水に苦笑いしつつ、が一歩前に出た。

「皆、お疲れ様。私は。本来クルーでは無いが、特別参加だ。私もこのトレーニングで帆船と船に魅了された人間のひとりだ。今は二等航海士として、航海当直や船長と意見交換しつつ航海計画を立案・実施している。今後は実質的な指揮命令を一任される、一等航海士になり活躍するのが夢だ。この夢の様な日々を思い出の記憶にするも良し。私の様に夢を現実にするも良し。君たちの心に、良き航海の経験が刻まれた事を祈るよ」
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