第1章 世界を渡る最初の一歩
龍水はフランソワに今回の話を受けると返答。上層部はこれで龍水が駄目な道楽息子でも、マトモで頭の切れる上に、身の丈にあった良家の娘と良い縁談が結べたと喜んだ。これでさぞかし龍水も落ち着くだろうと思ったが——
その目論見は見事に外れ。落ち着くどころか、更に道楽息子っぷりが加速した。龍水は中学生の時点で既に帆船を作らせた。許嫁の蒼音に上層部が何とか止めろ、唯一龍水が自分で認めて惚れた婚約者だから、と縋りつくも。そもそも《あの》龍水が惚れた相手だ。
蒼音が龍水への理解度MAXなので、話にならない。むしろ好きな事をやって欲しい、等と援護射撃した。女性関係の問題も、側室が居た方が家が安泰だのなんだの、時代錯誤のある意味戦国時代の武家の家らしい無茶苦茶な回答で流してしまった。
事ある毎に龍水への不平不満の問題を、蒼音が自慢の頭脳で説き伏せたのだ。彼には才能がある、それを伸ばす金など幾らでも遣わせておけ、と。散財すら許容してしまうが、仮にも政界とも強力な関係を持つ六道院家からの進言である。七海財閥も既にその人脈にあやかっていたので、無下には出来なかった。もちろんその辺の計略は、蒼音が裏で手を回していたのだが。もはや買収の様な物である。
一方、蒼音の方は歌手活動に親が全力で反対した。お前は頭脳派だ、こんなに優れているのにどうして芸術方面に行くのかと。足りない機材や、歌や作曲を教わりたいなど。諸々の相談を聞いた龍水が彼女の歌手活動の費用面を全て負担した。
こうして、七海財閥の上層部を蒼音が黙らせて龍水に好きな事をさせ、龍水は金銭援助をした結果。龍水は航海力や気象学などの能力を身に付け、好きな様にのびのびと生きやすくなった。
蒼音は、世界トップクラスの歌唱力を持つ歌姫になった。本名こそ出さないものの、リリアン・ワインバーグとコラボを果たし、若き天才歌姫として世界を魅了する存在となった。
龍水と、蒼音。共に、海をも渡り、世界を渡る存在となったのだ。