第1章 世界を渡る最初の一歩
その事に歓喜しつつ、龍水はひたすら船の話をした。
専門外だろうに、蒼音は適宜相槌を打ちつつ時折話を深堀りする質問を投げる。真剣に聞いてくれるので話す側も楽しかった。
ひとしきり龍水の船の話をした後は、蒼音の方の話も聞いた。彼女のお気に入りはリリアン・ワインバーグというアメリカの歌姫。語学の勉強も兼ねて海外で飛び級で学問を収め、歌い手としての仕事をやる計画らしい。ちなみにリリアンの曲のカバーなら動画サイトでアップしており、脅威の歌唱力の小学生として注目を集めていた。その動画を見せて貰う。
「フゥン?当たるぜ俺のカンは。あえて名前を出さないのも、歌手の仕事に行きたいのも、家とは無縁でいたいからか」
動画を見ていた龍水が言った。
「そうそ。だって嫌だもん、欲しい物は自分の実力で手にしないと。中身の無い物に意味などないよ」
静かに味噌汁を啜る蒼音。ふう、あとは食後の甘味の類いだけかな、と息をついた。確かにそうだ。彼女の言う通り、肩書きより中身の方が遥かに大事だ。龍水も上層部の押しつけのお見合いという外面で判断して切り捨てていたが。目の前の存在こそが、それを物語っている。会って腹を割って話さなくては分からない物がある。世界には、こんな面白い人間がきっと山ほどいるのだろう。見たい。知りたい。全てを——
「……蒼音」
「どうしたの、龍水君」
二人は短期間に、本音を好きに言い合える強力な同盟関係を結んでいた。
「貴様の歌は、世界に轟くだろう。俺には見えるぞ、蒼音の歌が、海をも超えて世界中の人々を震撼させるのが!」
その言葉に、彼女は目を見開き。その日いちばんの、綺麗な顔で嬉しそうに笑った。
「……うん。そうさせてみせるよ。そしていつか」
あのリリアンと、共演する。そう決意の言葉を述べ、食事が終わり次第二人は解散した。