第1章 世界を渡る最初の一歩
洗練された綺麗な所作で天ぷらをすっ、とつゆに付けて食べている辺り、蒼音はきちんと礼儀作法は習っているのだろう。そしてぶち壊す予定であったこの見合いの場でもそれらを守っている。一方龍水は礼節ガン無視であぐらをかき、無茶苦茶に食べ散らかしている。指摘する人が誰も居ないのもある。
「ほう?無粋、か。確かに貴様の名を知らんとはな!無粋なことをした!」
「別にいいよ。それで?契約結婚言い出すからには、君も家の事スルーして、やりたい事があるんでしょ」
端的な問いかけ。流石は小学生にして先祖返りと言われる天才だけあり、蒼音は話が早くて助かる。
「はっはーーー!!よくぞ聞いてくれた!!俺はな、自分の手で海を渡るつもりだ!今はボトルシップを集めているが、それだけでは詰まらない!」
龍水が高らかに宣言し、バッシィイイン!!と指を鳴らす。
「あー、金遣いが荒いとか何とか聞いてたけど、そう言う事か。ボトルシップって高いやつじゃん。自分の手で航海したいのか、成程ね」
金遣いの荒さやら龍水の派手な指鳴らしなど気にもしてない蒼音。
「じゃあ今回の見合いを成立させたら、お互いやりたい事をやりたい様にするって事で。あとは援護射撃かな。君の金遣いとかでこっちに抑える様に上層部から要望来るでしょ?そん時に黙らすくらいなら出来るよ。 君、女の子にも相当モテるらしいし。自由に側室でも持てばいい。犯罪でさえ無ければ何をしても構わない。私は歌さえあればいいからね」
冷静にとんでもない事を言う蒼音だが、龍水はその理解力と飲み込みの速さが気に入った。はっはー!貴様の言う通りにさせて貰おう!!と大喜びだ。
「それで?ボトルシップ、って帆船とかじゃない?そっち方面は私は詳しくは知らないけど、そういう昔の船を実際に作るの?」
「ああ!それで世界を回る!」即答する龍水。
「へー、いいじゃん、それ。面白そう。なかなか壮大だし」
ふっ、と彼女が笑う。
初めてだ。今までフランソワのみ、自分の行動に異議を唱えなかった。しかしフランソワは執事で、龍水を静観している。だから応援を直接された事は初めてだ。それも今いちばん気になる人から。