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二人の航海者

第1章 世界を渡る最初の一歩


「なあ貴様。俺と同じ一族の『異端児』なんだろ?そして同時に『天才』扱いされてる」
龍水がそうカマをかけると無表情でこちらを見据える彼女。暫くしてふうと息を吐いた。

「なんでか知らないけど、君にはこの手の煽りは逆効果みたいだね。いいよ、私も腹を割って話そう。私は祖先の天才軍師の生まれ変わりと呼ばれる人間だ。学問は高校クラスを履修中。経営者達の事業に顔を突っ込んだり、政治家にアドバイスを請われる。帝王学やら人の上に立つ者としての教育は受けて、海外の学校での飛び級準備もしてる。でもね、それらの『向いてる事』よりも、ずっと『やりたい事』があるんだよ」
そこでスッ、と茶を一杯啜る少女。

「フゥン?やはり同じ穴の貉の輩か。言ってみろ、その『やりたい事』を」
龍水がワクワクと続きを促す。君は本当になんと言うか、変な人だねと言いつつ、少女が告げた。初めて心から思っている事を口にする様に。

「歌が、好きなんだ。曲を作り、歌詞を紡ぐ。それらを私が歌にして、皆に届ける。私の歌で、皆が笑うのを見るのが好きなんだ」
だから縁談で家に縛られるのは絶対にごめんだと。その表情は心から楽しそうで、それでいてとても綺麗な、煌めく海の輝き。他人の笑顔を心から尊ぶ美しき瞳。欲しい。この笑顔が欲しい。ならば。

「決めたぞ!」
高らかに龍水が宣言すると、何を?と少女が視線を投げてくる。

「契約だ!おい貴様、俺と手を組む気は無いか!?俺と許嫁として契約を結んだ暁には、その音楽活動には一切口出ししない!貴様の家柄だと金銭面で苦労するのは目に見えてるが、俺が全部出そう!ただし貴様も俺の事情には口出しするな!!」

「なるほど、契約結婚だね」
即座に中身を理解しニヤリと少女が笑った。面白い、と。そこで料理が運ばれてくる。豪華絢爛な懐石料理を食べつつ自由に話した。

「ところで貴様。名はなんだ?」
「龍水君。それくらいは事前に知っておきなよ。私ですら一応名前ぐらいは最低限調べるよ?全く無粋だなあ。六道院蒼音。呼び方はまあ好きな様にして」

「じゃあ蒼音だな!蒼音、貴様の云うところの『無粋』とはなんだ?」
「君、頭いいヤバい天才だよね。なんで知らないの?無粋は、粋では無いこと。要するに『ダサい』だね、現代語で言うと。対義語の『粋』は、さっぱりとしてて、垢抜けてる感じ」
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