第7章 青空と曇り空
「ああ。何せ私は3700年も脳をフル回転させたスーパーメンタルタフネスの女でね。待つ事は慣れてるんだ。ちゃんと、君が帰ってくるまで結婚の話も、守るさ。君を、ずっと待とう」
蒼音の言葉で、また龍水の瞳に光が差し込んだ。いつ戻るかも分からない結婚の約束を守る。それは、最低十ヶ月腐らない程度の航海の食事を作った自分たちがそれだけ帰らなくても。もし、永遠に帰らぬ身になったとしても……
言葉通り、【ずっと】守ってくれるだろう。帰るかどうかの身の安全など旧世界の頃より判別しづらいストーンワールドでは、永遠の誓いの様な物だ。全く、この世界でいちばん、俺が愛する高嶺の花は。本当に自分を喜ばせる天才だ。龍水は笑って答えた。
「はっはーーー!!安心しろ、直ぐに戻って貴様をこの俺の嫁にしてやるからな!!もちろん船出までに貴様との思い出作りもするぞ、覚悟しておけ!」
突然調子の良くなった龍水に、ハイハイ期待してるね、と蒼音は笑った。別れの哀しい船出行きのチケットを、結婚の希望に満ちた幸せ行きのチケットにすり替えて。
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その後、無事回復した龍水は【七海エンタテインメント】で新しく演劇の興行も行った。科学学園でのプチ演劇が功を奏して、石神村からも役者をやりたい者が出た。古代人と現代人共同で漫画家の先生の作った話を元に色んな劇を興行した。『宝石の死神』も授業の物より遥かに豪華になった設備と演出、よりボリュームを増して再構成した話で再公演し、人気を博した。
演劇と歌手『Aonn』のライブ用に作ったホールを、普段は科学学園の教室としても貸し出し雨の中でも授業が出来るようになった。雨の授業中止に悩まされてきた科学学園からすれば喜ばしい事だった。勿論、その辺のレンタル料金は龍水が千空達から取った。そこは商売人、抜かりが無い。演劇の主役は欲しくないのか、と蒼音に聞かれたが……
「いや、要らん。身近で『プロデューサー』として飾り気のない貴様を見た方がいいのでな」
穏やかな笑顔で龍水が舞台衣装に身を包む蒼音を見ると、何故か蒼音がふいと顔を逸らした。そうか、と呟いて去る蒼音に何か粗相をしたかと思ったが。
「変わったな、龍水は」
フッ、と。蒼音はこっそり誰も居ない所で呟きしゃがんだ。朱の差した頬に手を当てながら。