第7章 青空と曇り空
「もしかして、私への差し入れかい?」
「バレンタインの返しもまだだったから作っただけだ!だか、そんな粗末な物は……って貴様!?」
普通にあむ、と食べる蒼音。もぐもぐしてる蒼音と顔を真っ赤にしている龍水の二人に、科学学園の講師と生徒の視線は釘付けだ。
「ん。ご馳走様、龍水。美味しかった。何時も私が食べてるのとは違う、チョコ味にしたんだな?お菓子作り慣れないだろうに、頑張ったな。これは有難く没収させて貰おう」
蒼音があの龍水の大好きな包み込む優しい微笑みをした。没収、と言ってはいるが貰ってもらえた。しかも経験則上、蒼音が『龍水』と呼び捨てする時は本音の気がする。《美味しかった》と、蒼音が言ったのだ。龍水の顔が本来の太陽の輝きを取り戻す。
「ああ!それくらい何時でも作ってやるから幾らでも没収するといい!!」
バッシィィイン!!と指を鳴らすが……
「あ。でも君、授業の邪魔したから後で片付けな」
蒼音にサラリと罰を与えられつつ。生徒達が去った後、青空教室である科学学園の椅子や机類を洞窟へと運んだ。
「にしても、蒼音が学園長とは。貴様が総合的には一番のブレーンだからか?」
掃き掃除をしつつ、龍水が蒼音に聞いた。黒板を消した蒼音がパンパン、と黒板消しを叩く。
「いや。科学学園自体が船出に行かずに残る者にも知識を付けさせる目的でな。千空君が居なくなる以上、残った者で諸々の設備維持をしなければならない。そうなるとやはり文字や計算などを覚えて貰うのが良い」
「ふむ、それでか。そこはどうしても船出組と二手に分かれるからな。蒼音は小学生から年齢問わず勉学を教えて小遣い稼ぎをしてたな。指導に手馴れている貴様が学園長として適任だな」
そう納得している龍水だが。
「そう。だから《残留組》で、船出組が去った後も居て指導も出来る私が学園長に抜擢されたのさ」
ぴた。龍水の手が止まり、パタンと箒が倒れる。
「どうした、龍水君。手が滑ったか?」
「いや。蒼音、何故残ると決まってるんだ」
震える右手を左手で抑え、龍水が尋ねた。
蒼音が残る。龍水は絶対に船出組だ。それは二人が、下手をすれば永遠の別れをするという事でもあった。