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二人の航海者

第7章 青空と曇り空


「皆、感想文を書け!見たからには書くんだ。タダで見れるとは思うなよ!?」
「えぇえぇぇええ!?!」

絶叫する生徒達。先程までの感動はすっかり吹っ飛んでしまった。どうやらみな感想文の存在を忘れていたようだ、と察しつつも、蒼音の顔から圧は消えない。

「授業の一環だから当たり前だ。今まで培った国語の力を見せつけたまえ!何でもいい、自分で文章を考えるんだ。実践に活かすのがいちばん身につくからな」
「あはは?蒼音は容赦ないよね、その辺」

何とかヒーロー役の青年の台本を読み終えた羽京が感想分用のプリントを配る。格好良い羽京の役に、幼女達はすっかり虜になっている。

「羽京先生、格好良かったです!」
「王子様みたいでした!!」
「もう一回見たいです!」

「ありがとう、みんな。もう一回は……どうかな?」照れつつもちゃんと返す羽京。賑やかな学園の背後の草むらから一人の震える男性が立ち上がった。龍水である。ドカドカと蒼音に近付くと、蒼音が『あ、龍水君』と声をかけた。

「まさか見てたのかい?本当に物好き」
「好きだ!!俺を宝石にしろ!!」
誰よりもクソデカドイヒーなボイスで感想文を提出する龍水。蒼音以外ドン引きである。

「龍水?今は授業中なんだけど」
羽京が止めても止まらない。だがそれが龍水だ。

「俺は心底貴様に惚れ込んでいる!!貴様の物になるなら本望だ!喜んで貴様の宝石に」

「龍水君、落ち着け。君が何故か劇を全部見て感情移入し過ぎてるのはよく分かった。ちなみに手のそれはなんだい?」
「……!!こ、これは……!!」

背中に隠そうとするが、蒼音がひょいと取り上げてしまう。先程蒼音に愛を語った最中に、中身をうっかり興奮で握り潰していた。こんなのは渡せない、と思ったが蒼音が『学園の不法侵入者の持ち物だから検査するぞ』等と言い中を開けてしまう。

「お、おい蒼音……!ま、待て!今度綺麗に作った時に…!!」

蒼音が普段から自分で作って食べている、くるみとどんぐりのクッキーが中にあった。割れて不格好ではあるが、恐らく元は綺麗な楕円だっただろうそれを遠慮なく蒼音が観察する。
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