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二人の航海者

第7章 青空と曇り空


そう最期の言葉を遺した瀕死の愛する人の前で、茜は自身の手元に残った力を使う。忌まわしき死神の力を。

「もし、私が人間を死なせて宝石に出来るのでしたら。逆は、出来ないのでしょうか。宝石から……元の、貴方を……。今なら、憎いこの私の力で。穢れたこの力で、貴方を助けられませんか。ねえ——」
茜はひとすじの涙と共に仄かな可能性を秘めて青年を宝石にする。ルリが続きを語り聞かせる。

《茜は青年の宝石を手に、ひたすら道を探しました。それは前代未聞の、死神が人間を生かす道。過酷な道でしたが、彼女は諦めませんでした。ある日、とある風変わりな店で出会った女主人と取引をします》

「それで、その宝石の中の奴を、アンタの強い力で復活させようってのかい。人間を生き返らせるなんて、酔狂なやつもいたもんだねえ」
女主人の声だ。蒼音が声を変えて台詞を述べると、はいと元の主人公・茜が頷く。

「可能性があるのでしたら。何でもやります」
そう言って、宝石を差し出した。
「アンタの力が有れば、出来るかもしれない。ただそれと引き換えとなると、もう死神でも不老不死でも居られない。ただの人間と同じだ。いいんだね?」
念押しされてこくり、と頷いた。

《少女は待ちました。青年とまた会える日を。幾年も幾年も。そして、また巡り会うのです。かつての青年に》
日常の最中。料理のパントマイムをする蒼音が、観客席を見て幸せそうに微笑んだ。
「——!お帰りなさい……!」

《こうして、かつての死神の少女は限りある人生を。青年と共に生きるのです。罪と罰を背負いながら、かけがいのない日々を。おしまい、おしまい》

壮大な物語が幕を閉じた。最後は、死に絶えた様な茜が黒板を背にゆっくりと座り込み微笑んで目を閉じた。幸せに生涯を終えた少女。暫く放心した生徒達が、演者達に拍手を送る。『演劇』。偽物の物語を、ホンモノの様に見せて魅了する芸術。

「よよ、良かったんだよ〜!やっと一緒になれたんだよー!!」
「ちゃんと最後は幸せになれたんやね…!良かったわあ〜!」
「ああ。確かにこれは凄いな」
皆が拍手する中、元のニッコリ笑顔で蒼音が演者紹介をすると。カッ!と目を見開いた。
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