第7章 青空と曇り空
「演劇か。ルリは国語等はまだ履修していない筈だが、これなら語り部として参加出来る。気まずい思いをする真面目なルリの事も考えたのか。はっはーーーー!!流石は蒼音だな!!?」
近場の草木に隠れ見ていた龍水が小声で褒め称える。授業後に渡す予定の蒼音への【プレゼント】を手にワクワクしていた。蒼音の瞳と同じブルーのリボンで絞った布袋。今の流れを邪魔するのは無粋……というか普通に演劇が見たい。ので後で渡す事にした。
演劇『宝石の死神』が始まる。ルリが百物語同様に、物語の始まりを紡ぐ。彼女が居るだけで、石神村の人々からしたら大違いだ。洗練された語り口調が物語の中へと誘う。
《むかし、むかし。ある所に、歳を取らない、とても美しい少女がいました。少女は老いる事も、死ぬ事もありません。彼女は宝石を集めては、眺めるのが好きでした》
蒼音演じる少女がフードを被ったまま宝石箱をぱか、と、開いて様々な色とりどりの鉱物を出した。嬉しそうに眺める少女。
《ですが、その不思議な少女の不老不死には、条件がありました。彼女は、『死神』と呼ばれる、人間の魂を狩り取る存在でした。人間の魂を奪うのと引き換えに、永遠の命と美貌を保っていたのです。絶世の美女である彼女の美しさに魅了された人はたちまち美しき宝石になり——死んでしまうのです》
ガシャンッ!!!!
人が変わった様に宝石箱を叩きつけた少女——もとい死神に、ビクリと観客の生徒達が震える。ゆらり、と。まるで観客の魂を欲しがる様に歪んだ眼差しを蒼音が向けた。黒いフードの下の狂気。
「足りない。まだ、綺麗なのが。足りないわ……」
不穏な蒼音を他所に、ルリが語り続ける。
《宝石の輝きが、元の人間の持つ心の清らかさであればあるほど、美しく輝く事に、ある日少女は気付きます。美しい魂を求める旅に、死神の少女……茜は出ました。そんなある日、一人の青年に出逢うのです》
ルリの語りが終わる。宝石箱を持った蒼音演じる【茜】が黒板の後ろを通って一周する形で姿を隠して、今度はローブも元から着ていた羽織も取って学生服の様なシャツとスカートで現れた。茜はひときわ心の清らかな心根の青年に惹かれ、恋をしてしまう。だが、茜の能力は自分を美しいと思った人間を宝石にしてしまう。その事に悩む茜。