第7章 青空と曇り空
龍水の周りに居た過去の女性なら、『美女だ』『欲しい』の言葉や、花束や高価なブランド物の服を買ってあげたり、高級レストランやリゾート地に連れて行くと皆喜んだ。美女たちは口を揃えて礼を言い、その笑顔を見て龍水も微笑んだ。
だが。誰より笑顔の欲しい蒼音には、その手の金で手に入る物も、手作りも効かない。物欲の権化で、世界一の欲しがりの龍水と違い、蒼音は無欲の権化。世界一の禁欲的な女性なのだ。そんな蒼音を喜ばせる方法など、龍水からしてみれば難題過ぎた。
本来ならこんな重大な【心底愛する女性へのプレゼント】くらい自分だけで決めたいが、全く検討が付かない。悩む龍水は、双眼鏡を持ちながら傍に控えるフランソワに助けを乞うた。元許嫁とはいえ、蒼音と過ごせた時間は少ない。中学から龍水は世界を船で周ったからだ。蒼音はフランソワに調理指南をしてもらったり親しげなので、何かヒントもあるかもしれない。
「フランソワ。無粋を承知で聞くが、蒼音の好みそうな物はなんだ?あの【無欲の権化】は、どんなプレゼントなら受け取るんだ」
そうですね、とフランソワが少し考え込んだ。フランソワがこうなるくらいだ。矢張り蒼音は相当難攻不落な高嶺の花なのだろう。
「蒼音様は、非常に慎ましやかなお方です。龍水様の言う通り、無欲の権化でございます。人から貰う事より、人に与える事に喜びを見出すお方です。気持ちの込め過ぎた物は逆効果でしょう。ですが、そんな蒼音様でも受け取って頂けるプレゼントはございます」
「ほ、本当か、フランソワ!?言ってみろ!」
そのフランソワの台詞に、龍水はワクワクと目を輝かせた。
「蒼音様は、」
続く台詞に、龍水は呆気に取られた。
「本当にそれなら受け取るんだな?そんな物で俺の気持ちも伝わるのか、フランソワ」
「はい。蒼音様には寧ろ丁度良いのです」
ぺこり、と頭を下げるフランソワに、ふむと龍水は思案し。
「はっはーーーー!ならやる、やるぞ俺は!!!蒼音の為ならその程度、やってやる!!」
バッシィィイン!!と指鳴らしをして、【ドキドキ!プレゼント★大作戦】が始まった。