第5章 貴方の隣で
断れるはずもなく、私は灰谷兄弟の家に来る事になった。
元々荷物は少ない方だったから、引っ越すのに時間は掛からなかった。
家具なんかはないから、キャリーが一つとボストンと、ダンボールが少し。ダンボールは後から来るので、先にいる物だけキャリーとボストンに詰めて移動する。
蘭さんは今日少し出かけてるので、竜胆君が一緒にいて荷物まで持ってくれている。
キャリーくらいは持つと言った私の言葉は、竜胆君の無言の圧力によって無意味なものとなり、あっという間に荷物も全て奪われてしまう。
「荷物持ってもらっちゃって、ごめんね」
「その為に来たんだから、甘えとけ」
二人でゆっくり歩く。
竜胆君が先に沈黙を破る。
「で? 兄貴と付き合うのか?」
「え? 何で付き合う話になるの?」
「……は? だって、兄貴は……あー……なるほどな」
自己完結はやめて欲しい。凄く気になる。
「何、中途半端にしないでよ、何か気持ち悪いから嫌だ……」
「うーん……お前の心開くのに一生懸命な兄貴を応援してるとだけ言っとくわ」
心を開いたからといって、どうなるわけでもないだろうに。
蘭さんは私をただ傍に置いて、好きな時に抱くだけ。
蘭さんの周りには女の子はたくさんいるから、セフレみたいな立場の子なんていくらでもいるだろうし、私もその中の一人なのか、ただ弄ばれているだけなのか。
考えていて、ハッとする。
そう言えば、最近蘭さんに抱かれなくなった。キスはするけど、以前のように体を求められる事はなくなっていた。
セフレですらない私は、一体蘭さんにとって何なんだろう。
何の為に、彼は私を傍に置いておくんだろうか。
考えたところで、私は蘭さんじゃないから分かるはずはなく、ただモヤモヤするだけだった。
「意味分かんない……」
蘭さんの香りが染み付いたベッドに横になり、蘭さんの香りに包まれるみたいに、枕を抱きしめて体を丸めた。
しばらくすると、眠気が襲って来て目を閉じると、ゆっくりと意識が薄れて行った。
微睡みながら、耳に声が届く。
髪をサラリと撫でられる感覚が心地よくて、その手に擦り寄る。
「ふっ、可愛い奴。おーい、枕なんかじゃなくて、俺に抱きついておいでー」
ベッドが揺れて、沈む。