第5章 貴方の隣で
一日蘭さんと街を歩いて、彼が普段どんな場所が好きで、どんな景色を見て、どんな世界に生きているのかを少し知った。
意外だったのはモンブランが好きな事。
甘いのなんて食べる印象がなかったから、食べてる時に少し表情が柔らかくなるのが可愛くて、また笑っていると蘭さんも優しく笑う。
蘭さんの笑顔は、私みたいな凡人の心臓にかなり悪い。
再び灰谷兄弟のマンションに戻り、部屋を見て絶句する。
「……嘘でしょ……」
「兄貴もまた張り切ったもんだなー。すげぇ量……」
目の前に広がる紙袋と箱の山に、呆気に取られて開いた口が塞がらない状態。
まさか、試着した服や靴のほとんどを購入しているなんて、夢にも思わなかった。
聞いていた量より明らかに多い。
「し、信じられない……」
こんな爆買いしている人を初めて見た。
「そんな驚く事じゃねぇだろ。これでも少ねぇよ」
馬鹿な事を言わないで欲しい。
「兄貴が女に何か買うなんてよっぽどだぞ。せっかくだし遠慮しないで貰っとけば?」
貰う意味も分からないし、プレゼントされる理由もないはずだ。
ただ、断ったらそれはそれで後が怖いし、どうしたものか。
とりあえず蘭さんの部屋に置いておく事が決まる。
そして、話の流れで蘭さんがまた衝撃な事を言った。
「……え?」
「だから、お前寮だろ? そこを出ろっつったのー、分かる?」
何故服を置く話から、寮を出る話になったのか。
「よ、呼び出すのが、面倒だから、ですか?」
ソファーに座る蘭さんの開いた脚の間に座らされ、後ろから包まれる体勢に体を緊張させながら、恐る恐る聞いた私の肩に蘭さんの顎が乗せられる。
「いんやー、どうせここにいる方が何かと便利じゃん。そもそも寮に帰る方が少ねぇし、二度手間だろ。こっち来るのが自然じゃね?」
私の首をはむはむしながら、器用に話す蘭さんの言う事は最もだけど。
困る私は、端の方に座って雑誌を読む竜胆君を盗み見ると、私の視線に気づいたのか、竜胆君がチラリとこちらを見た。
「……はぁ。兄貴は一度言ったら聞かねぇからそうしたらいいんじゃねぇの? 二度手間ってのは一理あるしな」
そうするしかなさそうだ。
少し蘭さんの方に視線を向けると、楽しそうに微笑む顔が見えた。