第21章 第二十話 14番目
しかしいくら考えた所で彩音たちに分かるはずもなく…。
結局、彩音と不二は謎を残したまま過ごす事となった。
場所は変わってコムイの手術室。
「ユキサちゃん。戦いはどうだった?」
「問題なく」
短い返答に、そう…とコムイは少し悲しげな表情をする。
注射のために捲っていた袖を、ユキサは下ろす。
「…いいかいユキサちゃん。神田くんにも言ってあるけどね、命には限りがあるんだ。だから簡単に使っちゃいけない」
「分かってます。私も死のうと思ってるわけじゃないので」
分かっているならいいんだけどね、とコムイが表情を曇らせながら言った。
とそこへ、控えめにノック音が響く。
「あの、コムイさん」
「あれ?アレンくん?」
どうしたんだい?とコムイが近付くと、アレンが何かコムイと話していた。
ユキサがその様子をじぃ…と見つめている。
正確にはアレンを。
「…というわけなんです。なのでまた時間のある時に確認してもらえると…」
「そうか…分かった、こちらから聞いてみるよ」
ふと、アレンが視線を感じたのかユキサと目が合った。
少しだけアレンが居心地悪そうに視線をそらす。
そんな2人の雰囲気を察してか、コムイが先に部屋から出た。
アレンとユキサ。
この2人は、皆の前では普段は前と変わらない態度を取っている。
しかし実際は、彩音たちが話していたあの出来事の事をしっかりと覚えており、気まずい関係になっていたのだ。
ユキサはアレンに受け止められたあの時、うっすらと意識が戻っていた。
目の前で優しく向けられた瞳、いつもと違う雰囲気を纏うアレンにキスされた事もぼんやりと覚えている。
その後はすぐ意識を失ってしまったため、正直夢だと思っていたのだ。
しかし教団で意識が戻ってからアレンの態度が少しよそよそしかった。
皆の前では普通にしてても、2人きりになると態度が違う。
どうしたのかと聞いたアレンから出た言葉は、まず謝罪だった。
謝られるような事があったかと考えた所で、ユキサはあの出来事を思い出した。
だけどあの時は、アレンは正気じゃなかったとユキサは思っている。
それでもユキサには神田がいるのに…とアレンはずっと気にしている。
「アレン」
「…はい」
小さく返された返事。