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船上の医師

第2章 正義の致死量


「エピ1アンアイブイ!」
 雪乃はCPRを継続しつつ点滴確保とアドレナリン投与を許可した。「静脈路確保困難です!」と看護師の声。
「ならIO(骨盤路)から!」
 指示通りに看護師が動く間に、2分間のCPRを終えた雪乃は別の看護師に変わる。ルート確保した看護師が心停止に使われるエピネフリンという強心剤を1アンプル投与する。
 
「23時9分、エピ投与!後押しで生理食塩水20cc入れました」
 そう報告を受ける。雪乃の額には汗が滲んでいた。これでROSC——自己心拍再開が来れば。心電図の波形を雪乃は睨む。しかし、雪乃がチェックパルスする間も波形は変わらずに一本線がまっすぐ引かれている。
「……!」
 これでも来ないか!?雪乃達、ERのスタッフにピリッとした衝撃が走る。矢張り原因治療が必要か。雪乃は無数ある原因の中から、砂金を探し出すような思いで脳内検索をかける。アシドーシス、循環血液量減少、心タンポナーデ、エトセトラ……。どれだ?
 
「今23時10分!あと2分でエピ1アンアイオー!」
 指示を出しながら考える。するとふと患者の左腕に視線が行った。絆創膏がぺとりと貼られた肘の内側。それをべりっと剥がせば、ほっそりとした膨らみ。皮膚の折り返し地点であるそこには線がある事自体はおかしくないのだが、雪乃の目にはそれがくっきりと浮き上がって見えた。緊急時では見落としかねない、微かなヒント。

 ——急性薬物中毒。
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