第2章 正義の致死量
「龍水……」
少年の大好きなキャラクター、七海龍水の年表が書かれたページを見る。若いなぁ、と言いながら彼の顔が載ったそれを軽く手で撫でた。一通り読み終えた雪乃は、少年の家族に電話を掛けた。数日後、少年の墓前に最終回の掲載されたジャンプとファンブック、そして菊の花束を持って雪乃は赴いた。線香を上げて、祈る。どうか、あの世で結末を見てね。約束……
「ごめんね。守れなくて」
生命と約束。二つの意味を込めて、雪乃は囁いた。患者が死ぬ度にこんな風になっていては医師は勤まらない。全力を尽くしても、生命は零れる。されどその痛みに慣れてしまえば、何かが終わる気がしていた。
——そんな彼女は、今、新しい世界で転機に立たされていた。
「あのー。どちら様で」
「はっはー、とぼけるな!俺だ、七海龍水だ!」
転生した先、自宅前の道路にて。買い物に出かけようとしたら何故かその龍水に待ち伏せされていた。フランソワまで後ろに控えている。なんでこんな事に。
「分かるよ。どうせ私の事欲しがりに来たんでしょ?帆船航海の為に」
「その通りだ、貴様の家を調べて電話を掛けたが出ないのでな」
「それサラッと言っていい情報?権力乱用してない?」
雪乃、ドン引きである。だから龍水は苦手なんだ……と頭を抱えた。知らない連絡先からは基本出ない雪乃、まさかそれで自宅に凸されるとは思っていなかった。そんなに自身がいいのか?彼女が居なくても原作はきっちり人類70億人助ける所まで行くだろうし、龍水だって帆船航海してるんだからここで船医を断っても何とかなるのだろう。雪乃はそこまで《分かった》上でスルーを決めていたのだが。
「えーと、取り敢えず家上がって」
龍水のビッグボイスで、なんだなんだと道行く人が此方を見ていた。不味いと思い家に上げた。なら遠慮なく邪魔するぞ、と龍水。そういうとこだぞ、と雪乃は苦手だな〜と思いつつ欲望に走る龍水を家に上げた。フランソワも「失礼致します」と上がってきては手土産を渡してきた。