君 死 に 給 う こ と 勿 か れ 。【鬼滅の刃】
第1章 憐 れ な 少 女 。
"何か"の血肉をただ一心に貪る私を、眺めている男が居た。
興味を持つ訳でも、殺そうとする訳でもない。
ただ、観賞するように眺めていた。
私はそんな彼を気にする素振りは見せることなく、目の前の肉の塊を頬張る。
決して美味しいとは言えぬ代物だが、何故だか肉を引き千切る手は止まらない。
悲鳴を上げ、許しを請う"何か"の顎を外した。
そこで気を失ったのか、はたまた死んだのか、ダランと"何か"は重力に抗うのを辞め、目を閉じて抵抗をしなくなった。
「……何をしている」
"何か"を貪る私をじっと見ていた男が、私に問う。
帯刀をしているのにも関わらず、其れを抜く様子はない。
其の男は眉目秀麗という言葉がよく似合う、青い目が特徴的な人だ。
但し帯刀をし、黒い隊服を着ていることから、お父様から聞いた"鬼殺隊"の人間であることは確かだ。
「…何をしていると聞いている」
『………鬼喰い…』
私は少し迷った末に手を止めて答えることにした。
見ればわかる筈なのに聞かないでほしい。
「……親は」
『皆、鬼を喰う前に死んだ。鬼を食べれないなら身体能力は塵同然だから』
月から与えられた、残酷で皮肉な特殊能力。
私は自嘲するように鼻で嗤った。
『鬼喰いしか能がないのに、其れをしなかったら何ができるって言うのよ…』
男は何か考えているような素振りを見せる。でも其の顔は無表情だ。
相変わらず、男の腹の底は知れない。
「……最後に一つだけ尋ねる。オマエは何者だ?」
……其れは、鬼か、人間か…または別の生き物か…ということだろう。
この鬼狩りはそういうことが言いたいんだろう。
殺されるのか、それとも生かされるのか…。
正直に言えば、どちらでも良かった。
此れは私にとっての、賭けだ。
『…鬼を喰う、人間だよ』
「………そうか」
次の瞬間、頸に衝撃が走った。