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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花




「私、今の生活が幸せなんです。夏油様のためなら何でもします。何人でも殺します」

「……そうか」


夏油は複雑な表情で微笑んだ。

この少女は、決して賢くはない。

人の世の理を理解しているわけでもない。

ただ、純粋に自分を慕ってくれているだけ。

この手のタイプは、必ずどこかで不覚を取る。

自分の足を引っ張る存在になるのであれば、最初から駒として利用して切り捨てるつもりだった。


だが、いつの間にか情が湧いていた。

凍てついた心に、小さな温もりを灯す存在を知ってしまった。


「100」


夏油は唐突に、数字を口にする。


「え?」

「私の理想を邪魔する敵――高専関係者を100人殺したら、君を正式に迎え入れよう……真の伴侶としてね」


ゆめの目が見開かれた。

言葉の意味を理解して頬が紅潮する。

鼻息荒く彼に詰め寄った。


「本当ですか? 約束ですよ!」

「ああ、約束だ」


なぜそんな約束をしたのか、夏油自身にも分からなかった。

ただ、この少女の笑顔をもう少し見ていたかった。

この温もりを、もう少し感じていたかった。

それだけだ。


「頑張ります! 絶対に100人殺します!」


弾けるような明るい声は、使命感と喜びに震えていた。


その晩、少女は憧れの人と結ばれた。

ゆめにとっては夢のような夜。

夏油にとっては、自分の罪深さを改めて突きつけられる夜。


朝まで睦言(むつごと)を交わす姿は、どこにでもいる恋人同士のようだった。




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