第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花
スマホを取り出し、夏油にメッセージを送る。
『今日も一人やっつけました!褒めてください♡』
既読がつき、返信が来る。
『ご褒美に、今夜は君の好きなものを食べようか』
「やったぁ!」
ゆめは飛び跳ねて喜んだ。
道行く人々は、幸せそうな女子高生を微笑ましく見つめた。
制服姿の少女が、こんなに楽しそうにしている。
きっといいことがあったのだろう。
誰も知らない。
彼女の指先が、たった今、一つの命を奪ったことを。
ゆめは空を見上げた。
青く晴れ渡った、美しい空。
雲一つない、完璧な青。
「今日も、いい天気だなぁ」
その笑顔は、あまりにも無垢だった。
◆◆◆
「ゆめは私の宝物だ」
ある夜、夏油はそう囁いた。
二人きりの部屋で、ゆめは夏油の膝に頭を預けていた。
伽羅の香を纏う彼の指が、ゆめの髪を優しく梳く。
人払いした彼の部屋で、月明かりだけが二人を照らしていた。
「本当に、ですか……?」
「ああ。君がいてくれて、私は救われている」
夏油の声に僅かな陰りがあったのは、己も気付かぬ疲弊が重なっていたからか。
理想を追い求め、血の道を歩み続ける孤独。
重すぎる大義。
終わりの見えない戦い。
ゆめの無垢な笑顔は、その重苦しさを一時忘れさせてくれた。
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