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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花



術師の手が、ゆるやかに自分の首を絞め始める。

両手で、力の限り。

指が喉に食い込み、血管が浮き上がる。


「や、め……!」

「あなた、優しいですよね。私みたいな一般人にも親切で」


ゆめは楽しそうに話し続ける。

周囲の客には、店内の端の席で二人が談笑しているようにしか見えない。

客に背を向けた術師の苦悶の表情は隠されている。

テーブルの下で、足が痙攣している。


「でも、優しいだけじゃ駄目なんですよ。もっと警戒しないと」


術師の顔が紫色に変わっていく。

目が血走り、涙が溢れる。

口が開いているが、声は出ない。


「だって、世の中には私みたいな人もいるんですから」


ゆめはアイスコーヒーを飲み干した。

氷がカラカラと虚しい音を立てる。


「ごちそうさまでした。あ、クッキー食べます?美味しいですよ」


ゆめの白魚のような手で、甘い塊が相手の口に押し込められる。


「美味しいでしょ。 夏油様に褒められたいから、頑張って作ったんです」


首を絞めながらクッキーを噛む。

少女の手で次々と押し込められる菓子を飲み込む。

泡を吹きながら首を絞める。

狂った人形のような動き。

クッキーの欠片が、術師の口からこぼれ落ちる。

やがて、術師の手が力なく落ちた。


「お疲れ様でした」


ゆめは術師の頭を優しくテーブルに伏せさせた。

まるで、居眠りをしているかのように瞼を閉じさせる。

その顔は穏やかで、まるで昼寝をしているようだった。


「あ、会計忘れずに」


レジでお金を払い、ゆめは店を出た。鼻歌を歌いながら。

『ちょうちょ』の歌。

子供の頃から好きな歌だった。




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