第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花
【記録③ 術師殺害の手口】
ある日の指令。標的は若い二級術師だった。
ゆめはカフェで獲物を待っていた。
壁際の席でアイスコーヒーを飲みながら、スマホで夏油の画像を眺めている。
店内にはジャズが流れ、珈琲の香りが漂っている。
何もかもが、平和な午後の風景。
「あ、来た」
標的が店に入ってくる。
ゆめは笑顔で手を振った。
「こんにちは!この間はありがとうございました」
ゆめは、この術師に「たまたま呪霊に襲われていたところを、通りがかりの呪術師に助けられた一般人」として接触。
優しい性格のこの男性術師は、「また変な現象が起きるようになった」と相談してきたゆめとの面会を快く引き受けてくれていた。
「やあ、夢野さん。また何か起きた?」
術師が向かいの席に座る。
爽やかな笑顔。親しげな口調。
彼は、ゆめを守るべき一般人だと信じて疑っていなかった。
「その前に、これ。お礼です」
ゆめが差し出したのは、手作りのクッキーだった。
ピンクのリボンで可愛らしくラッピングされている。
「わあ、ありがとう」
術師が微笑む。ゆめも微笑む。
その瞬間、見えない糸が術師の全身に絡みついた。
違和感に気付いた男の表情が一瞬で凍りつく。
身体が、自分の意思に反して動き出した。
その手は勝手にクッキーの包みを開き出す。
「な、何が……」
「あ、バレちゃいましたか。まあ、もう遅いですけど」
ゆめはおもむろに一枚摘み出し、クッキーをかじる。
サクサクという軽快な音をBGMに、片手の指を動かした。
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