第37章 ゼロの
「ガスを爆発させた可燃物の件は?」
風見さんが歩きながら質問をした。
「まだです。今刑事部で電気設備を調べています」
「その発火物ですが、高圧ケーブルかもしれません」
「まさか、工事ミスが見つかったんですか!?」
「いや。だが、高圧ケーブルの格納庫に焼き付いた指紋が見つかった」
焼き付いた指紋…、
つまりは、爆発前にだれかが格納庫を触った際についた指紋か。
「現場に入ったのは工事関係者と、今朝警備点検した我々公安部だけ。よって工事関係者の指紋および警察官の指紋をデータベースで照合した結果、
かつて警視庁捜査一課に在籍していた……、
毛利小五郎の指紋と一致しました」
「えっ!?」
「そんなバカな!!」
「うそでしょ…」
風見さんの説明を聞いた我々、特に毛利さんに関わりの深い一課の面々は息をのんだ。
そんな中私は自席を立ち上がり、モニターの前に立っている風見さんのそばへと歩き出す。
「…本気なんですか?」
目の前まで来て、風見さんを見上げながらそう問うた。
「あぁ」
見上げる私の目を真っ直ぐに見ながら、風見さんは答えた。
その答えには何か他の意味を孕んでいるような気がして、私はこれ以上詰めることなく自席へと戻る。
「…では、毛利小五郎を爆発犯の容疑者として家宅捜索を行いましょう」
「くん!!」
「目暮警部、現場から指紋が見つかった以上我々が目をつむることは出来ません。毛利さんのためにも、しっかりと捜査を行うべきです」
「それは、そうだが……」
私の言葉に煮え切らない様子の目暮警部。
そりゃ、私だって毛利さんが犯人だなんて1ミリも思っていない。このタイミングでこんなに都合よく焼き付いた指紋が見つかるのもおかしな話だ。
だが、公安は公安で何か考えがあるらしい。今は、それに従うべきだろう。
「…わかった。佐藤、高木、頼んだぞ」
「「はいっ」」
「では、我々公安部も同行させてもらいます」
毛利さんの自宅に捜査が入るとなれば、彼もきっと動き出すはずだ。彼なら、公安の真意やその先に至るまで全てを解き明かしてくれるかもしれない。
こうして事は事故から一転、事件性を増して進んでいったのだった。