第4章 初 体 験(♡♡)
ベンチで応急手当を受けるリエーフは、最後まで試合に戻ろうとした。だがここで無理をさせては、治るのがもっと遅くなって、そうすれば春高に響くのが分かっていた。
控え室に様子を見に行くと、ひどい顔だった。
えぐえぐと、幼子のように涙を流し鼻水もヨダレも関係ないぐらいぐしゃぐしゃの顔で。みんなも肩を叩き、背中をさすり、何も言わなかった。何も、言えなかった。
「カノジョさんは行かないんです?」
黒尾がこっちを見向きもせずに言う。
『ああいう時、わたしは無力だなと思う』
夜久の時もそうだった。代わりにコートに立つことも出来ず、一緒に医務室に行って、試合運びを見守ることしか出来なくて。
たくさんの後悔と、焦燥に駆られる夜久は、同じような気持ちだったのだろうりただあの時は、結果的にチームが勝てたから良かった。今回は、紛れもない敗北で、全国行きの切符は指先をかすめもせずにこぼれ落ちた。
『後で泣きついてきたら、
その時はたぁんと甘えさせてあげるよ』
でも、今は。
『今は、あの子たちの方が、
きっとリエーフの力になってくれる』
「………そうだな」
わんわんと泣くリエーフに釣られて泣き出す1年生たち。もっと俺が決めていれば、もっと僕が拾っていれば、きっと誰もがそう思う。
だから、次は笑って終われるように。今度こそ、勝って終われるように。もっともっと、バレーに打ち込むことを、わたしは知っている。わたしたちが、そうだったから。
その時、スマホの通知音が鳴る。メッセージの差出人は、烏野の仁花ちゃん。
烏野、決勝で負けちゃいました。
涙の絵文字と共に送られてきた文面。そうか、烏野もダメだったのか。白鳥沢にはウシワカもいないし、いったいどこに負けたんだろう。
「烏野のマネちゃん、なんだって?」
『あ…向こうは決勝戦で負けたみたい』
「そうかァ…
今年のインハイではゴミ捨て場、叶わないか」
そうだね、と黒尾に返す。相変わらず黒尾はこちらを見ていない。わたしもまた、ずっとリエーフたちを見つめている。
ふと、あかねちゃんとアリサさんがこちらを見ているのに気付いた。近くまで行って、3人とも涙腺が崩壊して、声を殺して泣いた。
けれどこれは、夏の始まりに過ぎないことを、わたしたちは知っているのだ。