第4章 初 体 験(♡♡)
挨拶をし、午後の試合に向けて荷物を置いている控え場所に移動するみんなの後を、黒尾とついて行く。後ろにいるわたしたちに気付く気配も無く、ひたすらに今の試合を振り返っている。
「リエーフ、最後のコース良かった」
「研磨さんも、ナイストスです!」
「山本。ナイッサー、イレイサー」
「福永もブロック良かったぜ!」
「犬岡くんのブロックよかった!
レシーブ拾いやすかったから助かった!」
「ありがとう、芝山もだんだんなんか、
なんか夜久さんみたいんなってきたな!」
あぁ、微笑ましい。後輩ってなんでこう可愛いんだろうな。いつまでも、眺めていたい、この背中。
このままだと気付かれなさそうだね、と黒尾に耳打ちしたその時、ぐるっとリエーフが振り返った。
「あっ、悠里センパイ!」
『おつかれみんな、差し入れ持ってきたよん!』
うぉぉはちみつレモンだああぁと騒ぐみんな。山本に紙袋に入ったはちみつレモンとピックを渡すと、我先にと手を伸ばす。そんなに喜んでくれると思わなかったなぁ。
もぐもぐとレモンを頬張るリエーフの脇腹を、少しの恨みを込めて、つんつくとつつく。
『最初のアレ!なんなのよ!』
「いやぁ、悠里センパイ見付けて、
可愛いなって思って、俺だけ見てくんないかなって!」
『顔から火出るかと思ったんだら、やめてよね!』
まぁまぁ俺のってみんな分かってくれたしいいじゃないスか、良くないどんな顔して母校歩けばいいのさ、堂々としてればいいですよ俺の彼女ですし、そんなわけに行かないでしょ絶対後ろ指差されるんだからね、うんぬんかんぬん。
『次、いよいよトーナメントの決勝でしょ、
しっかり休んで、備えていくんだよ』
「もちろん!」
全部ブロックするし全部スパイク決めますと大口叩くから、これなら安心だと思って、いたのに。
不運だったとしか、言いようがない。
1セット目も終盤、ネットの真上、ボールの押し合い、ジャンプの後、リエーフの右足は相手選手の足の上に着地してバランスを崩して転倒、だがそのまま1セット目はなんとか取った。
しかし蓋を開けてみればラストの10点の間、一体どうして動けていたのか分からないほどに酷い捻挫だった。
そうして、貴重な攻撃力を欠いた音駒高校は敗退した。