第4章 初 体 験(♡♡)
最寄り駅に着けば、待ち合わせをした黒尾と早くもそんなやり取り。持っている紙袋の中を覗き、柏木のレモンうめぇんだよなと舌なめずりをする。お前のはちみつレモンねーから。
会場に着けば、大会特有の高揚した雰囲気が包み込む。ついこの間まで着ていたジャージと制服の集団を探せば、アリーナに近い最前列には見慣れた姿。
『あかねちゃーん、アリサさーん!』
「「悠里ちゃん!」」
在校生からの好奇の視線を浴びながら、座席の間にある階段を下りていく。コソコソと、男バレの先輩だよねとか、卒業した去年のマネージャーだよなとか聞こえてくる。小っ恥ずかしいぜ。
2人の横に並べば、ちょうど試合前の整列が始まる。ふ、と客席を見遣る銀髪の長駆。目と目が会い、瞬間、リエーフはクソデカボイスで叫んだ。
「悠里センパ───イッ!
俺だけ見ててくださいね───ッ!」
『あンの、バカ……っ!』
「レーヴォチカったら、積極的!」
ざわりと、音駒スタンドが色めき立つ。ああもう。次からお忍びで来てやろうかな。隣の黒尾は腹抱えて笑ってるし、まじなんなん。キレそうなんだけど。
孤爪と山本に引っ叩かれ、ポジションにつくリエーフ。試合開始のホイッスルが鳴り、相手のサーブから始まる。さぁ、粘りの音駒のバレーといこうじゃないか。
さすが2日目まで残っているチームと言ったところか、攻守も安定しているが、いまいち火力に欠ける。いや、うちのレシーブがその火力をかき消しているのか。1セット目を取ると、その勢いのままに2セット目もぐんぐん調子を上げ、20点へ。
ディフェンスの穴を突いた孤爪のツーアタックが、確実に相手を追い詰めていく。たまらず相手のタイムアウト。ベンチに集まるみんなに、黒尾と2人、叫び散らかす。
「ナイス研磨ァー!」
『性格悪いぞ孤爪ー!』
すっごい嫌そうな顔した孤爪がこっち向いた。人殺しそうな目してる、もうやめとこ。
再開のホイッスル、 ここで山本のジャンプサーブのローテ。そして、乱れた相手のレシーブがチャンスボールで返ってきて、孤爪のトスは、センターバックから飛ぶリエーフの手元へ。鞭のようにしなる腕から弾き出されたスパイクは、相手コートへぶっ刺さる。
セットカウント2-0、ストレート勝ちだ。