第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
店を出るや否や聞えてきた敵意たっぷりの言葉と聞き覚えのある声に、驚き立ち止まると同時にそちらへとバッと視線を向けた。
そこにいたのは
「……っ…獪岳!!!」
あの日、じぃちゃんの家を出てから初めて目にする同門の男の姿だった。獪岳は店の壁に背を預けながら両腕を身体の前で組んでおり、話しかけてきたのはそちらからだというのに私の事を少しも見てもいなかった。
相変わらずのその態度に、"再会の喜び"なんて感情は浮かんでくるはずもなく
「…よかった…生きてたのね。で?なに?何か用?」
私も自然と喧嘩腰になってしまう。獪岳はそんな私の反応に、"…なるほどなぁ"と蔑むような薄ら笑いを浮かべながら互いの距離を詰めるように近づいてくる。
……っ…なんなのこいつ?
同門との久しぶりの再会だというのに、こんな負の感情しか抱けない自分に僅かな情けなさのようなものを感じはした。けれども、いくら私が獪岳との関係を取り繕うとしても、相手が端からそんな態度なのだから仕方がない。
獪岳は私の問いに答える様子もなく、先程の嫌な笑みすら浮かべることなく、無表情で私をただじっと見ていた。けれども
「男が嫌い…なんて態度してたくせに、お前、元炎柱に囲われてんだってなぁ?」
「…っ!!!」
獪岳は右端の口角だけをあげ、私を蔑むような口調でそう言ってきた。更には
「しかもお前、そんな弱っちぃ癖に音柱の継子なんてしてんだってなぁ?」
そう言いながら一歩、また一歩と私に近付いてくる。段々とつまっていく獪岳との距離に不快と言ったらいいのか不安と言ったらいいのか、自分でもはっきりとわからない感情が胸の奥から湧き上がってきた。
けれども、一歩でも後ずさってしまえば私を小馬鹿にしてくるこの男に負けるような気がして、私はその場から動かず、ただただ私を見下ろしながら距離をつめてくるその顔をジッと睨み続けた。