第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
お店を出た私は来た道を少し戻り、目当ての雑貨屋を目指し歩いた。
目的の店に到着し薄紫色の暖簾をくぐると、色鮮やかな着物を着た女性や子連れの女性のお客さんが何人かいた。
「いらっしゃいませぇ」
店員さんも、店の雰囲気に合った素敵な人でなんだか自分が場違いな気すらしてしまう。けれども滅多に来る機会もないし、帰ろうとまでは思わなかった。
色鮮やかな髪紐、花柄のハンカチーフ、飾りの着いた巾着袋…どれも隊服を身に着けていることの多い私には似合うものではなく、見て楽しませてもらうだけにとどめ手に取ることはしなかった。そんな中で唯一欲しいと思ったのが
…この風呂敷…私が杏寿郎さんに返すために買ったものと似てる…
陳列棚の1番端っこにあった風呂敷だった。
上弦の参との戦いの最中に杏寿郎さんに渡したあの風呂敷は、ごたついている中で何処かへ行ってしまったらしい。杏寿郎さんに”新しいものを買って返す!”と言われた私だが、そもそもあれは私が杏寿郎さんの風呂敷を駄目にしてしまったから代わりにと買ったもので、それをまた返してもらうというのもおかしな話だ。
返す、いらない、返す、いらない
そんな無意味とも思える押し問答を続けたことも、ある意味いい思い出だ。
杏寿郎さんと恋仲になって一緒に住むようになるなんて…あの時の私が知ったら腰を抜かして驚きそうだな
そんな馬鹿な事考えていると、自然と口元が緩んでしまう。私はその風呂敷を手に取ると、店員さんのところへと向かった。
「すみません、これを下さい」
「ありがとうございます。お包みしますので少々お待ちください」
「はい」
他のものは見るだけで満足だったのに、あの時の風呂敷に似ているそれを迷わず購入してしまう自分の行動に、僅かな呆れにもにた感情を抱く。けれどもそれ以上に
…杏寿郎さん、これを見たらどんな顔するかな
自分がそんな行動をとってしまう程に杏寿郎さんへの気持ちを表せるようになったことが嬉しくもあった。
店員さんから包みを受け取り、”ありがとうございました”の声を背に足取り軽く雑貨屋を出た私だったが
「いい御身分になったもんだな」
「…っ!?」