第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
そのまま一度も立ち止まることなく走り続け、今まで一度も来たことのない街にたどり着いた。その街はあまりごちゃごちゃしている様子はなく、なんとなく落ち着いた街だなという印象を受けた。
これから…どうしよう
全速力で走り続けた疲労と、感情のまま除隊届を残し、長屋を出てしまった私には、働き先はおろか、住む場所すらもない。お金も、長屋に住まわせてもらっていた代金としてほとんど置いてきてしまった。
とぼとぼと肩を落としながら歩いていると、好物のお団子の絵が描かれたのぼりが視界に映り込む。
…無駄遣いはあんまり出来ないけど…お腹も空いたし、お団子を食べながらこれからどうしようか考えよう
そう思い至り、私は甘味屋の入り口へと足を進めた。
ガラッ
扉を開けると
「いらっしゃい。好きな席にどうぞ」
感じのよさげなおばさんにそう言われ、店の1番隅にある2人掛けの席に腰掛けさせてもらった。壁に貼られているお品書きに目を通すと
…白玉におはぎ…それとお団子
お団子目当てに店に入りはしたものの、白玉もおはぎも捨て難いと思ってしまった。けれどもやはり、こんなふうに気持ちが落ち込んでいるときは、1番好きなものを口にしたくなる。
「すみません。餡子のお団子、3本お願いします」
おしぼりを持ってきてくれたおばさんに注文をすると
「あん団子3本ねぇ。すぐ持ってくるから待っててね」
おばさんは、やはり最初の印象の通り人のいい笑みを私に向けながらそう言うと、店の奥へとゆったりと消えていった。
営業終了間際なのか、店内には私以外のお客さんはおらずとても静かで
…なんか…落ち着く雰囲気だな
そんなことを考えながら店内を見回していると
"従業員募集!力のある人求む!甘味作り仕込みなどの裏方業務!※住み込み可"
と書いてある張り紙が視界に入った。