第6章 生きてこの先の刻を共に
「…っいいから早く!さっき投げたクナイは色合いからして一番藤の毒性は強いけど…そんなに長く足止めはできません!爆玉も残りはあと4つ!私ひとりじゃそんなに時間は稼げません!」
上弦ノ参はもう毒を分解し始めたのか変色していた拳が、すでに元の色に戻り始めている。それなのに
「時間を稼ぐ?そんな必要はない!今あいつが弱っている間に俺が奥義を使えば、きっとやつの頸を打ち取ることが出来る!そこをどいてくれ!」
炎柱様はそう言った。
「…っ!?何言ってるんです!?そんなぼろぼろの身体のくせに…奥義なんて大それた名前の技なんて使ったら…貴方の身体が持つわけないでしょ!?」
ちっとも私の話を聞いてくれようとしない炎柱様に、なんとか保っている私の冷静な思考がぎりぎりと音を立てて軋み始めた。
「俺の身など、あの鬼の頸を切り落とせるのであればどうなろうと構わない!だから早くそこを退くんだ!」
”どうなろうと構わない”
その言葉に、私の頭の中で
プツッ
何かが切れる音がした。
「…っ馬鹿なこと言うのも大概にしなさいよ!貴方がそんな風に自分の命をないがしろにしたらね…っ…残された弟さんはどうなんのよ!?どうしたらいいのよ!?」
「…っ!」
私の口から発せられた”弟”という言葉に、炎柱様は驚いたのか息を飲み、静かになった。
「命を懸けて責務を全うする!?…命がなくなったら…結局なにも残らないじゃない!どんなにぼろぼろで情けない姿でも…生きて戻って来てくれれば…それで良いの!それが良いのっ!!」
こんな話をしている間に、もうほとんど藤の毒は分解されてしまい、肌の色は元に戻り、上弦ノ参は腕を動かしその感触を確かめている。
…行くしかない。
「…さっさと薬飲んで!塗って!さもないと…天元さんに言われた通り…頭ひっぱたきますから…っ!」
それを言い終えた私は、残り4つのうちの1つの爆玉を手に取り
「荒山!!!」
私の名を叫ぶ炎柱様の声を背中で聞きながら、上弦ノ参に向かって走り出した。