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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第18章 月嗤歌 ED Side A【☔️ ⇄ 主 *♟(激裏)】


「じゃあ、………なんで、」

名前、呼んでくれないの、と彼を見上げると、その唇に人差し指が押し当てられる。



「私は、恐ろしいのです」

戸惑う瞳にほんの少しだけその目元が柔らかくなる。

唇をなぞりながら、さらに声を重ねた。



「皆さんから慕われている貴女が、………いつか私のこの手を離してしまわれないか———そのことをどうしようもなく恐れているのです」

持ち上げた掌に唇を落とした。ふれたことで生じた仄かな音が、彼自身の密やかな祈りを伝う。



———お慕い申しております———


———貴女に触れたい———


———ずっとこうして抱きしめていたい———


———貴女をこの手で幸せにして差し上げたい———


その首元に指をかけ、彼のおもてを引き寄せる。

ちゅ、と音を立てて唇を解くと、瞠目する瞳と視線がかち合った。



「私は彼とは違うよ」



「! 主様」



「ヴァリス、よ。さっきからそう呼んでって言ってるじゃない」

咎めるように呟くとさらに声を重ねる。



「あなたが痛みを乗り越えるまで、………ううん、その先だって傍にいるよ。

だから……不安にならないで」

そう言って微笑むおもてに、精一杯の祈りを込める。

その表情をみた途端、彼の唇が降ってきた。
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