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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第17章 月嗤歌【All Characters(別邸組)✉*♟】


「それでは立ってください、アリエ様」

巻き尺を手にしたレビが近づいてくる。

素直に従う彼女に、昏い笑みを湛えた彼が呟いた。



「猿芝居は辞めにしませんか、『ヴァリス』殿」



「!?」

身動いだ彼女の身体を抱き留めて、にこ、にこ、と笑って見せる。

けれどその瞳は全く笑んでおらず、染みのように広がる怯えがヴァリスの内を満たした。



「っ何を言うのかしら」

そう告げるけれど、わずかに声が上擦ってしまう。

そんな彼女の姿を見てすぅっとその瞳がひらかれた。



「まだ続けると? まぁ……俺にとってはどちらでもいい事ですが」

指が伸びてきてその唇をなぞってくる。

温もりなど微塵も感じられない、冷えた指の感触に、びくりとその身を震わせてしまう。



「あぁ……その眼………。わざわざ貴族どもに売りつけた甲斐があるというものだ」

その声の裏面を知る術もなく視界が廻る。


気づけば彼に押し倒されていた。

霞むような恍惚の霧を纏った瞳のなかに、一杯いっぱいに瞳をみひらく自分の姿があった。



「何を———っっ!」

紡ごうとした唇は、その眼をみた途端声を喪う。



ヴァリスは恐怖と驚きで瞠目した。

その瞳の先で、レビの両眼の色彩は、先刻までの互い違いの色ではなく———。



右目が、左目と同一の紅に変貌っていたのだから!
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