第2章 その感情の正体は
〔あなたside 2〕
私が伸ばした手が、払われる。
手がジンジンと痛んだ。
「触らないでよっ! 汚いっ!」
絶望とは、こういう事を言うんだろうか。
涙が溢れて止まらなくて、言葉も出ずにただ呆然とした。
幸せな日々は、そこで終わりを告げた。
私はすぐ、父方の祖父の元に預けられる事になる。
そう、私は母に捨てられたのだ。
祖父と祖母は優しかったから、すぐに私の生活は元に戻った。
新しい父のあの気持ち悪い手の感触も、忘れかけていた。
そんな矢先。
田舎だった祖父の家で過ごし始めて、三年が経ち、中学三年の頃だった。
部活で少し遅くなり、薄暗い道を足早に歩く。
遅くなる日は、だいたい祖父が迎えに来てくれるけど、今日は祖父の姿はなかった。
一本道だから、迎えに来るならいつか会うだろうと考えながら、私はもうすっかり慣れた道を歩いていく。
「やぁ……こんばんは」
突然声がして、人影が現れる。
知らない若いの男が、私の前に立った。
「君、この辺の子? 俺最近引っ越して来てさぁ、道に迷っちゃって、ちょっと道教えてもらってもいいかなぁ?」
ねちっこい話し方をする人だなと、少し不気味に思いながらも、困っているなら助けてあげないとと、私は少し警戒していた気持ちを解いた。
それが、間違いだった。
男の手が私の肩を抱く。
「ていうか、君すっごく可愛いねぇ……彼氏はいるの?」
耳元でする声に、背筋が冷えて、体が強ばる。
新しい父の感触を忘れかけていたのに、それすらも甦らせるかのような感覚。
「そんなに怯えないでよ……震えちゃって……そんなとこも、めっちゃ可愛い……」
髪を撫でる手が、頬に滑り、男に暗がりの方へ連れて行かれる。
私は、震える体を何とか動かそうと必死にもがき、男にカバンをぶつけた。
よろけた男を突き飛ばし、全力で走る。
道の途中で見覚えのある車が、こちらに向かって来るのが見えた。
遅くなった事を謝る祖父が、私の様子のおかしさを見抜く。
私は安堵で泣きじゃくった。
そんな私の背中を、祖父は優しく撫でてくれた。
祖父と祖母の優しさと、温かさに、私の心は少しだけ癒されていた。