第4章 傷とキズを舐め合うように
唇は優しく触れて、すぐに離れた。
「す、すみませんっ……私にはっ、これが精一杯、でっ……」
あぁ、もう本当にこの子は。
「……マジで好き過ぎて、おかしくなりそう……。あー、抱きしめたいのに……何で俺綺麗な体じゃないんだよっ……」
酒と他の女の臭いをさせて、ちゃんを抱きしめたくはなかった。
「あの……うち、来ますか?」
「……えっと……さん? 前にも言ったけど……」
「私、子供じゃないです……自分が何を言ってるかくらい、分かりますっ……」
俺の服の裾を震える手で引っ張って、俯いていた顔がこちらを見上げる。まるで、りんごみたいに耳まで真っ赤だ。
「さ、誘ってるんですっ! こ、こんな恥ずかしい事っ、言わせないでっ……」
ちゃんは今、もの凄く勇気を出してくれている。
片方の手で顔を隠しながら俯くちゃんの耳元に、出来るだけ優しく囁く。
「こんなにも魅力的なお誘いは断れないね……。お言葉に甘えます……」
とは言ったものの、そういう事になるのなら、色々準備はいるもので、幸い近くにコンビニがあったから、寄らせてもらう。
一通り買い終えて、ちゃんの指に指を絡める。
「お待たせ。こんなに緊張する買い物は初めてだな、ははっ」
小さく頷いたちゃんが、俺の絡まる指を強く握り返して、案内してくれるかのように手を引いてくれる。
部屋に着くまで無言だった。
心臓が、破裂しそうだ。
ちゃんはもっと緊張しているのか、手の震えが先程より強くなってる気がした。
怖いだろうな。その恐怖は、男の俺には計り知れない。
ちゃんを、安心させてあげたい。嫌な事も怖い事も、全部全部俺が消してあげたい。
こんな俺でも、ちゃんの為に何か出来るなら、出来るだけの事はしたい。
部屋に入って、バスルームを借りてシャワーを浴びる。
バスルームから出ると、タオルやバスタオルがいつの間にか用意されていた。
俺がいつ出てくるか分からないのを、ビクビクしながら用意している姿を想像すると、可愛くて辛い。
髪を軽く乾かして、匂いを確認して鏡で見て気合いを入れた。