第1章 俺と君とどっぽっぽ
彼女をチラリと見て、独歩君が口を開く。
「コイツは二ヶ月前にうちに来た新人で、一応後輩になる。俺が今教育係やってるんだ」
「そうなんだね。でも、随分独歩君に懐いているようだけど」
「懐くってお前……犬じゃないんだぞ。まぁ、でも確かに、よく考えたら俺にはよくくっついて来てるな」
独歩君が考えるように唸ると、小さくか細い不安そうな声が聞こえる。
「ど、独歩さんは……安全……なので……」
「……いいのか悪いのか……何か、それはそれで複雑だな……」
苦笑しながらブツブツ言う独歩君から目を離し、彼女を見つめる。
一度だけ目が合ったけれど、すぐに逸らされてまた独歩君の後ろに隠れてしまう。
何故だろう。その姿を見ていると、胸に黒い気持ちが広がって、面白くない。
こんな感情は、初めてだ。
僕らしくなくて、凄く気持ち悪い。
職業柄、女性には好かれる方だから、こういう扱いをされた事がないからなんだと、自分に言い聞かせる。
「じゃ、一二三、仕事に戻るから、お前も今日出勤だろ? 気をつけてな」
「ああ、独歩君も頑張って。プリンセスもね」
目が会わないまま、頭を下げる彼女がどうも気になったけれど、とりあえずその日はそれで別れた。
僕は仕事へ向かい、いつも通りに過ごしていた。
そして、ある日。
俺が休日に買い物をしていると、見覚えのある人影が目に入る。
物凄く、ガラスにへばりついている。
それはもう、ガラスと一体化してしまうのではないかと思う程に。
普段なら、絶対に俺がこんな行動を取るなんて、有り得ないのに。
気づいたら、俺はそちらへ向かって進んでいた。
「な、何、してる、の?」
話し掛けるのには、かなり勇気がいる。特に、女になんて。
心臓が、物凄く早く動いていて、汗が出るけれど、どうしてだろうか、いつもなら逃げるところを、話しかけてしまっていた。
突然話し掛けたからか、元々大きな目が更に大きく見開かれ、怯えた色を見せる。
けれど俺を捉えた後、微かにではあるけれど、安堵の色を見せた。
「あ、えと、あのっ……」
小さな体をもっと小さくして、少し後退ってこちらを見ては視線を逸らす。
自分でも女相手にこんな事思うなんて、夢にも思わなかった。