第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
謙信「革と布で使い分けしてあるんだな」
「ええ。馬に乗る謙信様のために手のひら側を革にしてあります」
謙信「そうか、ありがとう」
謙信様の記憶を失くし、トラベルガイドに書かれていた謙信様の自害を知り、私は夢で2度謙信様を失った。
ところが目の前に謙信様が居て、ちゃんと息をして、嬉しそうに笑っている。
(もうこれ以上望むものってないよね)
最高のプレゼントが目の前にいた。
謙信様の誕生日なのに私がプレゼントをもらった気分だ。
謙信「手にしっくり馴染むな。大きさも丁度良い。俺の手の大きさをいつ測った?」
「それは手が重なった時とか私の指の長さと比べていたんです。
使い始めから馴染むように革職人が念入りになめしたものを買ってきたんです。
裏地もしっかりつけたので温かいと思いますがいかがですか?」
謙信「手が重なった時に長さを測っていただと?いじらしいことをする。
城から持ってきたものよりも温かい。手が温まってからもう一度舞に触れることにしよう」
頬に謙信様の手が伸びてきて、新しい手袋の匂いと謙信様の香りがして、唇をかすめ取られた。
摩擦されていないのに体中がぶわっと熱をもつ。
謙信「ありがとう、大事にする」
「どういたしまして!謙信様が生まれてきてくださって、私と一緒に居てくださって嬉しく思っております。
また来年も祝わせてください」
謙信「もちろんだ」
もう一度唇が近づいて目を閉じたのだけど、
佐助「謙信様、舞さん、邪魔してスミマセンが昼食の時間です」
突然の呼びかけに私はグリン!と顔の向きを変えた。
「さ、佐助君、ごめ~~~~ん」
いつもなら私達が甘い雰囲気になると気を利かせて居なくなってしまうけど、外は嵐だし、この小屋はワンルームだ。気を利かせて席を外したくても外せなかったんだろう。
凍死の心配をさせた上に、気の利かない振る舞いをしてしまって佐助君に申し訳ない。