第34章 呪いの器(三成君)
三成「信長様の御前で抜刀することをお許しください。
呪いの器は血を吸うそうです。私の血をその簪に垂らせば判明します」
「えっ!?真珠が…血を吸うの?」
三成「真珠だけではありません。
これが呪いの器ならおそらくこの簪のどこに垂らしても血を吸うでしょう」
信長様が状況を楽しむようにニヤリと笑った。
信長「許可する。光秀、簪を三成の前に置け」
いよいよ怪談めいた展開になってきて、冷静になろうとしてもできず息を詰めて状況を見守った。
三成君が敷いた白い懐紙の上に光秀様は慎重な手つきで簪を置いた。
三成「始めますね」
息をひそめて見守る中、三成君が左手の小指に傷をつけた。赤い血が指先でゆらゆらと揺れながら一滴の雫となり、真珠の真上に落ちた。
ポタッ
真珠に当たって跳ねた血が小さな赤い点になって懐紙に散らばる。
当然の現象として発生するはずだった。
しかしツルツルした真珠に当たって跳ねるか滑り落ちてしまうはずの血は、スポンジに吸われるようにジワリと消えてしまったのだ。
「っ……!」
信長「ほう…?」
気味の悪い現象に声を失くした。
もう一滴落ちた血液もあっという間に簪に染みこんでしまい、黒い柄と紫真珠は血を吸っても相変わらず美しい姿のままだった。
簪本体も真珠も、何度も触れているが決してスポンジ状じゃなかった。硬質的な感触だったし、とても液体を吸うような代物じゃない。
光秀「これはこれは面白いものを見させてもらったな」
信長「三成、よくぞ気が付いた」
信長様に褒められても三成君はいいえと首を振った。
その顔は悲しげでどこか思いつめたような影があった。