第34章 呪いの器(三成君)
「愛用している簪が一覧にありません」
持って来いと言われて枕の下から千代姫から貰った簪を取り出した。
「すみません。こうして1日中私が持っているので、女中さんも証言し忘れたのかもしれません」
千代姫との友情を築くきっかけとなった簪。しかし信長様は素手ではなく手ぬぐいを乗せた手で受け取った。
その行動に『この簪に不審な点があるのだろうか』と急に不安がこみあげた。
信長「紫色の真珠など見たことがないな。それに漆の仕上がりが妙だ。
一体どこの地で作られたものだ?この簪はいつから使っている?」
日本全国、はたまた南蛮からも様々な献上品が届き、目が肥えている信長様が『見たことがない』『漆の仕上がりが妙だ』と言う。
「2か月前からです。その頃、安土に滞在されていた大名がいらっしゃったでしょう?
その娘の千代姫からいただいたものです」
名前を聞いた信長様は簪を見る目を細めた。
信長「三成が情を移したという相手か」
「ええと、ご存知だと思いますが誤解です」
訂正に対して信長様は特に反応しなかった。
この人の中で三成君が浮気しようが気にする事柄じゃないようだ。
初対面で夜伽しろと言ったくらいだし、1人を愛する一途さにこだわりがないのかもしれない。
信長「貴様と千代姫は姉妹のような仲だと聞いたが本当のことか。
上辺だけの関係ならそう言え」
(私のこと全部報告がいってるんだな…)
情を移したとか姉妹のようだとか、私から信長様に話したことは一度もない。
どこから報告がいっているのかわからないけど、こうなったら信長様が全部知っていることを前提に話をしよう。
「上辺だけの関係ではありません。
千代姫は周囲に誤解を与える行動をしてしまったと謝罪してくれて、この簪をくださったんです。
それからは歳が近いこともあって一緒に過ごす仲になりました」
信長「貴様が体調を崩し始めたのは簪をもらい受けた後で間違いないな?
針子部屋で倒れた時、この簪をさしていたのか」
「はい」
仕事の日は髪をまとめて、ほぼ毎日この簪を挿していた。