第34章 呪いの器(三成君)
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そのあとは朝起きて寝るまでの私生活を詳細に伝える事態になった。
信長様は前もって女中さん達からも証言をとっていて相違ないか照らし合わせながら聴き取りを進めていった。
女中さんから証言をとっている時点で私を尋問する気だったんじゃないの?と不満に思いながら、それが終わったのは深夜だった。
『やっと終わった…』と喜んでいると信長様は光秀様が作成したという私の持ち物の一覧表を広げた。
信長「この一覧に気が付いたことがあったら言え」
(う、まだやるの…。明るい時にしてくれないかな)
一覧表の紙は巻物とまでいかないけれど、それなりに長さがあって軽く巻いてある。
気づかれないようにそっと息を吐いて、一覧表に目を落とした。
(っ、すごい細かいところまで書いてある!)
着物は枚数から柄の種類まで。足袋や襦袢の数、紅をさす筆の本数まで。消耗品に関しては仕入れ相手、日付が記入されていた。
崩し字だから読めないところもあったけど、これは相当時間をかけて作成されたものだ。
(私のためにここまでしてくれたの?
こんなのを見せられて疲れたなんて言っていられないよ)
気を取り直して確認作業に入ったけれど、行燈の光の下、慣れない崩し字の羅列を読むのは骨が折れた。
「これはなんだろ…ナントカ油?髪につける椿油のことかな。
えー……とこれは、白の下はなんて漢字だろう…」
信長「貴様は文字に不慣れだったな。読み上げてやる」
紙を挟んだ真向かいから指がすっと伸びてきて、私が読めなかった文字を指して「白粉(おしろい)」と読み上げた。
「ありがとうございます…」
信長「ふん、いつまでたっても終わりそうにないからな。続けるぞ」
このお城で一番偉い人に文字を読みあげてもらう申し訳なさといったらない。小さくなる私の前で低い声が次々と持ち物を読み上げていく。
生理の時に使う綿や布まで確認された時は精神を削れられる思いがしたけれど、その甲斐があって、ようやく私はこの一覧にないものに気が付いた。