第34章 呪いの器(三成君)
(たしか広間で倒れた時も針子部屋で倒れた時もこの簪を挿していた)
そして倒れる前に一番強い症状として出たのは頭痛だ。
(簪を挿せば頭部にかなり近いけど、でもこの簪に何かあるなんて信じたくない)
謝罪の際の千代姫を思い出してみても含みや企みといったたぐいは感じなかった。謝罪の時も、その後も。
一緒に過ごした時間は楽しいものばかりで、思い出にある千代姫の笑顔に1点の曇りもない。
安土の皆には『人を信じやすい』『すぐ騙されるぞ』とか言われる私だったけど、何度も会い、長時間傍に居れば不審な点のひとつくらい気がついたはずだ。
(信長様の気のせいじゃないの!?
ちょっと珍しい真珠がついているだけの…ただの簪なのに)
そう信じたいのに信長様の手の上にある美しい品から目が離せなかった。
不安と不信が大きくなるにつれて簪の美しさが増したように感じられ、嫌な気持ちになった。
千代姫を信じているのに簪は信じられない自分が嫌だった。
信長「あの小娘か…」
冷ややかに光る緋色の瞳に力がこもり、私は急いで否定した。
「違いますっ」
時に非情をする人が親友に目をつけてしまった。
そう悟って血の気がザッと引いた。
「千代姫じゃないです!」
信長「疑いありと判断したのは俺だ。
貴様の意見など聞いておらん」
信長様の決断は早くて、夜中にも関わらず光秀様を呼び出し、簪を重要証拠品として預けたのだ。
信長「急ぎ千代姫を洗え」
「っ、やめてください!誤解です。
千代姫は違います……っ!」
光秀「そう血相を変えるな。俺とて鼻から拷問にかける真似はしない。
黙って寝ていろ」
「っ、その言い方だと証拠が揃えば拷問もありえるってことですよね?」
光秀様の手に渡った簪は、万が一でも触れないように、しっかり布にくるまれている。
いま取り返さないと二度と帰ってこない予感がした。